採用内定・内々定の取消し

 新卒者の採用は、①募集、②学生の応募、③企業の選考と内々定、④内定、⑤採用という手順で進むのが一般的です。

 もとより、会社が採用内定・内々定を取消すという事態にならないよう注意すべきですが、止むを得ない事情で取り消さざるをえないこともあり得ます。

 内々定、内定を取消すことができるのか否か、できるとすれば、どのような場合であるのかご説明します。

内定

採用内定の法的性質

 募集が申込みの誘因、応募が労働契約の申込み、採用内定が申込みに対する承諾であるとして、採用内定をもって、始期及び解約権の留保を付した労働契約が成立したとみるのが判例・通説です。最二小判昭和54年7月20日・民集33巻5号582頁(大日本印刷事件)、最二小判昭和55年5月30日・民集34巻3号464頁(電電公社近畿電通局事件)参照。

内定取消しの適法性

 採用内定は始期付解約権留保付の労働契約であると解される場合、内定取消しは留保解約権行使の適法性の問題となり、企業からの理由なき一方的な内定取消しは認められません。留保解約権の行使が適法と認められるのは、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」に限られるのです(上記最二小判昭和55年5月30日)。

 大日本印刷事件では、「『被上告人はグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった。』というのであるが、グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべき」として内定取消しは不適法とされ、電電公社近畿電通局事件では、「被上告人において本件採用の取消をしたのは、上告人が反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にある者の行動として、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したためであって、被上告人において右のような違法行為を積極的に敢行した上告人を見習社員として雇用することは相当でなく、被上告人が上告人を見習社員としての適格性を欠くと判断し、本件採用の取消をしたことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができる」として内定取消しは適法とされました。

損害賠償

 違法な内定取消しは、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償事由となりますのでご注意ください。

内々定

採用内々定の法的性質

 経団連の採用選考に関する指針では、2019年度入社の大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者等の採用選考につき、「正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降とする。」とされており、採用内々定とは、採用内定日以前に、採用予定の応募者に採用の意向を示すために行われる通知です。

 内々定は、多くの場合、企業と応募者の双方とも、それにより労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識には至っていないと考えられ、内々定の時点で労働契約が成立したとみることは困難であって、内々定の取消しは認められることになります。

 しかし、事案によっては、応募者の労働契約締結に対する期待利益の侵害ないし信義則違反であるとして、企業に損害賠償責任が認められることがありますので注意が必要です。

裁判例

福岡高判平成23年3月10日・労働判例1020号82頁

 採用内々定につき、始期付解約権留保労働契約の成立を否定しつつ、その取消しにつき労働契約締結過程における信義則違反があったとして取り消し企業の損害賠償責任(55万円)を認めました。

参考サイト

 

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(弁護士 井上元)