セクハラ・パワハラ対策

 ハラスメントとは、精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為のことです。セクシャルハラスメント(セクハラ)、パワハラ(パワーハラスメント)が多く問題となっていますが、マタニティハラスメント、アカデミックハラスメントなど様々なハラスメントが問題となっています。

 セクハラ、パワハラの問題が生じれば、会社の責任も追及されかねません。セクハラ、パワハラを防ぐ普段からの環境づくりとともに、発覚の対処も重要です。

セクハラ

 職場におけるセクハラとは、職場における労働者の意に反する性的な言動であり、当該言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクハラ)と、当該言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクハラ)があります。

 男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律)11条1項で「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定されており、同条2項「厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」を受けて、厚生労働省はセクハラ防止指針(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針)を定めています(厚生労働省告示第615号)。

参考サイト

パワハラ

 パワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為です。

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ハラスメントの民事責任

加害者本人の責任

 加害者本人は、民法709条に基づき被害者に発生した慰謝料、治療費、逸失利益等の損害賠償義務を負います。

会社の責任

 加害者に不法行為責任が認められる場合、会社には使用者責任(民法715条)やハラスメント防止に関する雇用管理上の必要な措置を講ずる義務を怠ったとして債務不履行責任(民法415条)等が認められる可能性があります。

裁判例

静岡地判平成11年2月26日・労働判例760号38頁(セクハラ)

「被告会社は、被告B及び同Aの使用者であり、同被告らの前記不法行為は同被告らの職務と密接な関連性があり、被告会社の事業の執行につき行われたものと認めるのが相当であるから、使用者として不法行為責任を負う。また、被告会社は、原告やS支店長に機会を与えてその言い分を聴取するなどして原告とS支店長とが特別な関係にあるかどうかを慎重に調査し、人間関係がぎくしゃくすることを防止するなどの職場環境を調整すべき義務があったのに、十分な調査を怠り、被告Bらの報告のみで判断して適切な措置を執らず、しかも、本件解雇撤回後も、被告Aの下で勤務させ、仕事の内容を制限するなどしたものであり、職場環境を調整する配慮を怠ったものであり、この点に不法行為があるというべきである。」

東京地判平成7年12月4日・労働判例685号17頁(パワハラ)

「使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならないものと解すべきである。しかし、右人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである。」

会社の対策

 ハラスメント対策については厚生労働省が対策・マニュアルを公表しています。これらをご参照のうえ、対策を講じてください。

加害者の処分

 会社にはハラスメントについて雇用管理上必要な措置をとる義務があり、加害者に対する厳正な処分をする必要がありますが、その処分は客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要があります。

最一小判平成27年2月26日・最高裁判所裁判集民事249号109頁

 会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、次の⑴~⑷などの事情のもとでは、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効である。

⑴ 上記男性従業員らは、①うち1名が、女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし、②他の1名が、当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら、女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなど、同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。

⑵ 上記会社は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け、その防止のため、従業員らに対し、禁止文書を周知させ、研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており、上記男性従業員らは、上記の研修を受けていただけでなく、管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。

⑶ 上記⑴①及び②の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは、上記各行為が一因となって、上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。

⑷ 上記出勤停止の期間は、上記⑴①の1名につき30日、同②の1名につき10日であった。

 

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(弁護士 井上元)