所持品検査・メールのモニタリング・パソコンの私的利用等はどこまで許されるか?

 雇用期間中、会社は企業秩序を維持する権限がありますが、これと労働者のプライバシー保護との関係で問題が生じることがあります。

 所持品検査・メールのモニタリング・パソコンの私的利用等はどこまで許されるか、裁判例をご紹介しますので参考にしてください。

所持品検査

最二小判昭和43年8月2日・民集22巻8号1603頁

「おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもって、当然に適法視されうるものではない。問題は、その検査の方法ないし程度であって、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当を方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があり、かく解しても所論憲法の条項に反するものでないことは、昭和26年4月4日大法廷決定(民集5巻5号214頁)の趣旨に徴して明らかである。」

「そして、脱靴を伴う靴の中の検査は、所論のごとく、ほんらい身体検査の範疇に属すべきものであるとしても、右の事実関係のもとにおいては、就業規則8条所定の所持品検査には、このような脱靴を伴う靴の中の検査も含まれるものと解して妨げなく、上告人が検査を受けた本件の具体的場合において、その方法や程度が妥当を欠いたとすべき事情の認められないこと前述のとおりである以上、上告人がこれを拒否したことは、右条項に違反するものというほかはない。また就業規則58条3号にいう『職務上の指示』について、所論のごとく脱靴を伴う所持品検査を受けるべき旨の指示をとくに除外する合理的な根拠は見出し難い。そして、懲戒解雇処分にいたるまでの経緯、情状等に関する原審確定の事実に徴すれば、上告人の脱靴の拒否が就業規則58条3号所定の懲戒解雇事由に該当するとした原審の判断も、所論の違法をおかしたものとは認めえない。」

電子メールのモニタニング

東京地判平成13年12月3日・労働判例826号76頁

電子メールの閲読行為について

ア 証拠によると、被告が原告らの電子メールを閲読した当時、F社の米国本部には、会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用の禁止等を定めたガイドラインがあったものの、日本国内のZ事業部においてはこれが周知されたことはなく、社員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく、社員の電子メールの私的使用に対する会社の調査等に関する基準や指針、会社による私的電子メールの閲読の可能性等が社員に告知されたこともないことが認められる。

イ 前記アのような事実関係の下では、会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は、通常の電話装置におけるいわゆる私用電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。すなわち、勤労者として社会生活を送る以上、日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として会社の電話装置を用いることが許容されるのはもちろんのこと、さらに、会社における職務の遂行の妨げとならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、これらの外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、会社の電話装置を発信に用いることも社会通念上許容されていると解するべきであり、このことは、会社のネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するというべきである。

ウ 社員の電子メールの私的使用が前記イの範囲に止まるものである限り、その使用について社員に一切のプライバシー権がないとはいえない。

 しかしながら、その保守点検が原則として法的な守秘義務を負う電気通信事業者によって行われ、事前に特別な措置を講じない限り会話の内容そのものは即時に失われる通常の電話装置と異なり、社内ネットワークシステムを用いた電子メールの送受信については、一定の範囲でその通信内容等が社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に記入されるものであること、社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在し、ネットワーク全体を適宜監視しながら保守を行っているのが通常であることに照らすと、利用者において、通常の電話装置の場合と全く同程度のプライバシー保護を期待することはできず、当該システムの具体的情況に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るに止まるものというべきである。

エ 証拠及び弁論の全趣旨によると、F社では、会社の職務の遂行のため、従業員各人に電子メールのドメインネームとパスワードを割り当てており、このアドレスは社内で公開され、パスワードは各人の氏名をそのまま用いていたこと、実際に社内における従業員相互の連絡手段として電子メールシステムが多用され、必要な場合にはCC(カーボンコピー)と呼ばれる同時に複数の従業員に対して同一内容の電子メールを発信する方法なども用いられていたことが認められる。

 このような情況のもとで、従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は、通常の電話装置における場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり、職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、あるいは、責任ある立場にある者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。

オ 本件において、被告が原告らの電子メールを監視し始めた経緯、監視の目的及び手段は、前記第3の1の(7)以下に認定したとおりである。

 これを前記の基準に照らして検討すると、被告の地位及び監視の必要性については、一応これを認めることができる。もっとも、本件においては、モクシャルハラスメント行為の疑惑を受けているのが被告本人であることから、事後の評価としては、被告による監視行為は必ずしも適当ではなく、第三者によるのが妥当であったとはいえよう。しかしながら、被告がZ事業部の最高責任者であったことは確かであり、かつ、他に適当な者があったと認めるに足りる証拠もないから、被告による監視であることの一時をもって社会通念上相当でないと断じることはできない。また、被告が当初、独自に自己の端末から原告A子及びFの電子メールを閲読したその方法は相当とはいえないが、3月6日以降は、担当部署に依頼して監視を続けており、全く個人的に監視行為を続けたわけでもない。

 これに対し、原告らによる社内ネットワークを用いた電子メールの私的使用の程度は、前記イの限度を超えているといわざるを得ず、被告による電子メールの監視という事態を招いたことについての原告A子側の責任、結果として監視された電子メールの内容及び既に判示した本件における全ての事実経過を総合考慮すると、被告による監視行為が社会通念上相当な範囲を逸脱したものであったとまではいえず、原告らが法的保護(損害賠償)に値する重大なプライバシー侵害を受けたとはいえないというべきである。」

東京地判平成14年2月26日・労働判例825号50頁

私用メール調査の必要性

「被告会社としては、まず、誹謗中傷メール事件について、原告にはその送信者であると合理的に疑われる事情が存したことから、原告から事情聴取したが、その結果、原告が送信者であることを否定する一方、その疑いをぬぐい去ることができなかったのであるから、さらに調査をする必要があり、事件が社内でメールを使用して行われたことからすると、その犯人の特定につながる情報が原告のメールファイルに書かれている可能性があり、その内容を点検する必要があった。

 また、私用メール事件についても、私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、送信者がその間職務専念義務に違反し、かつ、私用で会社の施設を使用するという企業秩序違反行為を行うことになることはもちろん、受信者に私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害することにもなる。また、本件ではこれに止まらず、証拠によると、受信者に返事を求める内容のもの、これに応じて現に返信として私用メールが送信されたものが相当数存在する。これは、自分が職務専念義務等に違反するだけではなく、受信者に返事の文書を考え作成し送信させることにより、送信者にその間職務専念義務に違反し、私用で会社の施設を使用させるという企業秩序違反行為を行わせるものである。このような行為は、被告会社の就業規則55条4、5、8、12号、29条2、3号に該当し、懲戒処分の対象となりうる行為である。そして、原告の私用メールの量は、証拠によると、平成11年9月から誹謗中傷メールの調査が始まる直前の12月2日までの間は、無視できないものであり、日によっては、頻繁に私用メールのやり取りがなされ、仕事の合間に行ったという程度ではないのであるから、このように多量の業務外の私用メールの存在が明らかになった以上、新たにこれについて原告に関して調査する必要が生じた。そして、業務外の私用メールであるか否かは、その題名だけから的確に判断することはできず、その内容から判断する必要がある。」

調査の相当性

「被告会社が行った調査は、業務に必要な情報を保存する目的で被告会社が所有し管理するファイルサーバー上のデータの調査であり、かつ、このような場所は、会社に持ち込まれた私物を保管させるために貸与されるロッカー等のスペースとは異なり、業務に何らかの関連を有する情報が保存されていると判断されるから、上記のとおりファイルの内容を含めて調査の必要が存する以上、その調査が社会的に許容しうる限界を超えて原告の精神的自由を侵害した違法な行為であるとはいえない。

 原告が指摘する点についてみるに、まず、原告に調査することを事前に告知しなかったことは、事前の継続的な監視とは異なり、既に送受信されたメールを特定の目的で事後に調査するものであること、原告が誹謗中傷メールと私用メールという秩序違反行為を行ったと疑われる状況があり、事前の告知による調査への影響を考慮せざるを得ないことからすると、不当なこととはいえない。

 また、他の社員に対し同時に私用メールの調査を行わなかったことについては、原告には、誹謗中傷メール事件の調査としてファイルの内容を含めて調査の必要が存していたし、私用メール事件としても、原告について、過度の私用メールが発覚した以上、原告についてのみ調査を行うことが、他の社員との関係で公平を欠いたり、原告への調査が違法となることはない。なお、Aについては、○○によれば、4月1日から15日までは専ら原告がAに送信し、この間にAのためにジオシティのメールアドレスを取得させ、その後も7月末まではほぼ一方的に原告が送信しているなど量的にも積極性の点でも原告と比べれば軽微であり、原告とAとでは、原告が正社員で社内システム委員であり、Aが契約社員の立場であること、被告がAにジオシティのメールアドレスを作ってやったことを考慮すると、Aについて調査なり処分なりをしなかったことが公平を欠くとは言い難い。

 さらに、上記調査目的に照らして、結果としては誹謗中傷メール事件にも、私用メール事件にも関係を有しない私的なファイルまで調査される結果となったとしても、真にやむを得ないことで、そのような情報を入手してしまったからといって調査自体が違法となるとはいえない。

私用メール等の本件データを保存し返還しない行為について

「保存する行為については、処分事案に関する調査記録は当該事案に関連する紛争に備えて、あるいは同種事件への対応の参考資料として相当期間保管の必要があり、上記のとおり違法に入手したものではない以上、これを削除する義務はなく、それをしないことが違法となることはない。また、直接処分の理由とされたもの以外についても、被告会社が業務目的で所有し管理する機器等を個人目的に利用したという点で、私用メール事件の情状に関するものということができるから、これらについても同様である。なお、被告Bが本件データを削除すると発言したこと、被告Cがこれを返還してはどうかと考えたことについては、上記判断を左右しない。

 返還しない行為については、原告において、それらを具体的に必要とする事情が存し、かつ、原告がそれらを保有していないのであれば格別、そのような事実が認められない本件においては、被告にはこれらを返還する義務はなく、それをしないことが違法となることはない。

 また、所有権侵害の主張については、被告が所有し管理する機器上に存するデータについて、原告が所有権を有するとはいえない。」

パソコンの私的利用

東京地判平成15年9月22日・労働判例870号83頁

就業時間中の私用メール

「労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが、労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。

 本件について見ると、被告においては就業時間中の私用メールが明確には禁じられていなかった上、就業時間中に原告が送受信したメールは1日あたり2通程度であり、それによって原告が職務遂行に支障を来したとか被告に過度の経済的負担をかけたとは認められず、社会通念上相当な範囲内にとどまるというべきであるから、上記(ア)のような私用メールの送受信行為自体をとらえて原告が職務専念義務に違反したということはできない。」

東京高判平成17年3月23日・労働判例893号42頁

「被控訴人は、当審においても、本件退職手当減額につき、控訴人が本件パソコンを就業時間中に頻繁かつ長時間にわたり私的目的で使用して職務専念義務に違反し、これが就業規則5条4号に該当する旨の減額事由①を主張し、この点につき、レファレンス等の業務のために本件パソコンを使用して他部署のデータにアクセスした旨の控訴人の主張には信用性がないとして、他部署のデータの閲覧履歴には偏りがある旨やレファレンス業務の実態等に関する証拠を提出する。しかし、他部署のデータ閲覧履歴の偏りがある等の被控訴人主張の事実だけでは、直ちに控訴人に職務専念義務違反があったということはできず、控訴人による文書データへのアクセスが職務専念義務違反に当たる場合があったことは否定できないとしても、その違反の程度は極めて軽微であることは原判決の判示するとおりであるから、これが就業規則5条4号の定める被控訴人の秩序又は規律を乱すことに該当すると認めるには足りず、これをもって本件退職手当減額の事由として考慮することはできない。」

福岡高判平成17年9月14日・判例タイムズ1223号188頁

 専門学校の教職員が、勤務先から貸与された業務用パソコンを使用して、出会い系サイトに登録し、勤務中に大量の私用メールのやり取りを行ったことを理由に懲戒解雇とされたことにつき、同懲戒解雇は、解雇権の濫用にあたらないとされた。

 

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(弁護士 井上元)