懲戒処分の注意点

 非違のある従業員に対して懲戒処分をすることもありますが、適正に行う必要があります。処分に際しては十分な注意をしてください。

懲戒処分の法的根拠

最一小判昭和58年9月8日・最高裁判所裁判集民事139号393頁(関西電力事件)

「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もつて企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができる」

最二小判平成15年10月10日・最高裁判所裁判集民事211号1頁(フジ興産事件)

「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」

懲戒処分のルール

 労働契約法15条(懲戒)では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定されているところ、具体的には次の1~3の要件により判断されています。

1 懲戒処分事由該当性

①懲戒事由を就業規則に定める必要

②不遡及の原則・一時不再理の原則ないし二重処罰の禁止

③懲戒処分後新たに判明した非違行為を懲戒事由として主張できない(最一小判平成8年9月26日・最高裁判所裁判集民事180号473頁)

2 処分の相当性

①懲戒処分を就業規則に明確に定める必要がある

②課される懲戒処分は労働者の懲戒事由の程度・内容等に照らして相当なものである必要がある(比例原則)

③懲戒処分は同種の非違行為に対しては同等のものでなければならない(平等取扱いの原則)

④懲戒事由発生時期と懲戒時期

⑤退職を申し出た労働者に対する懲戒処分の可否

3 手続の相当性(適正手続)

 本人の弁明機会など適正手続が必要である。

懲戒事由の具体例

 ①職務懈怠(無断欠勤、遅刻、早退、職場離脱、勤務不良、業務命令違反等)、②職場規律違反、不正行為)、③経歴詐称、④企業内政治活動・組合活動、⑤企業「外」の行動(飲酒運転、痴漢・破廉恥罪等、会社批判・内部告発、企業情報等の漏洩、兼業、競業行為、社内不倫等)などにつき争われることが多いようです。

懲戒処分の具体例

 ①譴責・戒告・始末書提出処分、②減給処分、③出勤停止、懲戒休職、④降職・降格処分、⑤懲戒解雇・諭旨解雇処分、などの処分があります。

 

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(弁護士 井上元)