従業員の秘密保持義務の対策はできていますか?

 近時、従業員による秘密保持の要請が高まっており、平成30年には不正競争防止法の改正も行われています。

 就業規則等の整備、営業秘密の管理体制の構築などに怠りはないか再確認いただければと思います。

在職中の秘密保持義務

 労働者は、在職中、労働契約の付随義務として、信義則上、使用者の営業上の秘密(企業秘密)を保持すべき義務を負っています(労働契約法3条4項参照)。

 秘密保持義務は、就業規則で定められていることが多いと思われますが、就業規則や個別の合意がなくても発生すると解されています(東京地判平成15・9・17)。

 労働者が秘密を漏えいした場合、会社は、就業規則に基づく懲戒処分や解雇、損害賠償請求を行うことができます。

東京地判平成15・9・17労働判例858号57頁(メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件)

 従業員が企業の機密をみだりに開示すれば、企業の業務に支障が生ずることは明らかであるから、企業の従業員は、労働契約上の義務として、業務上知り得た企業の機密をみだりに開示しない義務を負担していると解するのが相当である。このことは、本件就業規則の秘密保持条項が原告に効力を有するか否かに関わらないというべきである。

退職後の秘密保持義務

 退職後も秘密保持義務を負う旨の就業規則や個別の合意があれば、労働者は、これらに基づき秘密保持義務を負いますが、これらがない場合、労働者は秘密保持義務を負うのか否かにつき争いがあります。

裁判例

大阪高判平成6・12・26判例時報1553号133頁

 従業員ないし取締役は、労働契約上の付随義務ないし取締役の善管注意義務、忠実義務に基づき、業務上知り得た会社の機密につき、これをみだりに漏洩してはならない義務があることはいうまでもないし、また、(略)によれば、控訴人は、その就業規則中で、従業員に対し、その業務上知り得た機密の漏洩を禁止し(就業規則4条)、これに違反して業務上の秘密を洩らし会社に損害を及ぼしたときは懲戒解雇とする旨を規定(同74条3号)しているところでもあるが、控訴人には、その知り得た会社の営業秘密について、退職、退任後にわたっての秘密保持や退職、退任後の競業の制限等を定めた規則はないし、従業員ないし取締役が退職、退任する際に、それらの義務を課す特約を交わすようなこともしていない。しかし、そのような定めや特約がない場合であっても、退職、退任による契約関係の終了とともに、営業秘密保持の義務もまったくなくなるとするのは相当でなく、退職、退任による契約関係の終了後も、信義則上、一定の範囲ではその在職中に知り得た会社の営業秘密をみだりに漏洩してはならない義務をなお引き続き負うものと解するのが相当であるし、従業員ないし取締役であった者が、これに違反し、不当な対価を取得しあるいは会社に損害を与える目的から競業会社にその営業秘密を開示する等、許される自由競争の限度を超えた不正行為を行うようなときには、その行為は違法性を帯び、不法行為責任を生じさせるものというべきである。

仙台地判平成7・12・22判例時報1589号103頁

 労働者は、その負担する誠実義務の一つとして競業避止義務を負うと解されるが、労働者には職業選択の自由が保証されていることから、商法等により特別規定された場合を除き、雇用関係終了後は、当事者間で特約された場合において、しかも合理的な範囲においてのみ競業避止義務を負うものと解するのが相当である。もっとも、労働者が雇用関係中に知りえた業務上の秘密を不当に利用してはならないという義務は、不正競争防止法の規定及びその趣旨並びに信義則の観点からしても、雇用関係の終了後にも残存するといえようが、右を不正、不法と評価するに際しては、労働者が有する職業選択の自由及び営業の自由の観点から導かれる自由競争の原理を十分斟酌しなければならない。右観点からすれば、雇用契約上、雇用関係終了後の競業避止義務及び秘密保持義務について何らの規定がない場合において、労働者が雇用関係終了後に同種営業を開始し、開業の際の宣伝活動として、従前の顧客のみを対象とすることなく、従前の顧客をも含めて開業の挨拶をすることは、特段の事情のない限り、自由競争の原理に照らして、許されるものというべきである。

不正競争防止法

 不正競争防止法は、「営業秘密」の不正な取得・使用・開示を「不正競争」として規制しており、これにより、労働者は、在職中・退職後を問わず、営業秘密保持義務を負っています。

 労働者がこれに違反した場合、会社は、差止(3条1項)、損害賠償請求(4条)などを行うことができます。

 営業秘密であることの要件は、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)であり、このうち、①の秘密管理性につき争われることが多いようです。

知財高判平成26・8・6裁判所HP

 不正競争防止法2条6項にいう「秘密として管理されている」といえるためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ、当該情報にアクセスできる者が限定されているなど、当該情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していることを要するというべきである。

(参考)「逐条解説 不正競争防止法-平成27年改正版-」

 

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(弁護士 井上元)