有期労働契約と雇止め・無期転換

 有期労働契約とは、期間の定めのある労働契約のことです。アルバイト、契約社員、嘱託などいろいろな名称がありますが、期間の定めのあるものは全て有期労働契約となります。

 有期労働契約の期間の上限は、原則、3年であり(労働基準法14条1項)、下限を制限する規定はありません。

 使用者は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ期間途中で解雇することはできません(労働契約法17条1項)。

 有期雇用契約については、雇止めと無期転換ルールが大きな話題となっています。

雇止め法理

 民法上の原則では、有期労働契約は定められた期間が満了すれば契約を更新しない限り契約は終了し、使用者は特段の理由もなく更新しないこと(雇止め)ができるはずです。

 しかし、判例上、有期労働契約であっても一定の場合には解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用され、合理的理由のない雇止めは無効とされてきました。そして、この雇止め法理は労働契約法19条で明文化されています。

 雇止めの有効性に関連し、不更新条項や更新限度特約の問題があります。不更新条項とは有期労働契約について当該契約期間満了の場合には更新しない(最後の更新であること)ことをあらかじめ合意してことをいい、更新限度特約とは有期労働契約を結ぶ際に更新の回数の限度についてあらかじめ合意しておくことです。

裁判例

最一小判昭和49・7・22民集28巻5号927頁(東芝柳町工場事件)

 原判決は、以上の事実関係からすれば、本件各労働契約においては、上告会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであつて、実質において、当事者双方とも、期間は一応2か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであって、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。

無期転換ルール

 平成25 年(2013年)4月1日に改正労働契約法が施行され、無期転換ルールが規定されました。無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルールのことです。

現況

 平成30年(2018年)5月に施行から5年を迎え、多くの有期契約労働者の方に無期転換申込権が発生しています。無期転換ルールへの対応にあたっては、中長期的な人事労務管理の観点から、無期転換労働者の役割や責任の範囲、就業規則等の整備など、様々な検討が必要です。

特例

①「有期雇用特別措置法」による特例

 無期転換ルールの適用に当たっては、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法(有期雇用特別措置法)により、都道府県労働局長の認定を受けるこで特例が設けられています(施行日:平成27年4月1日)。

⑴「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く高度専門的知識等を有する有期雇用労働者

無期転換申込権発生までの期間5年を一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)に延長

⑵ 定年後に有期契約で継続雇用される高齢者

5年を定年後引き続き雇用されている期間に延長

②「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」による特例

 研究開発能力の強化及び教育研究の活性化等の観点から「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間(原則)5年を10年とする特例が設けられました(平成26年4月1日から施行)。

無期転換申込権の事前放棄

労働契約法施行通達第5の4⑵オ

「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものであること。」

無期転換申込権の事後放棄

 当然には無効とされませんが、真に自由な意思での放棄と認められるか否かにつき慎重に判断されるものと思われます。

参考サイト

 

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(弁護士 井上元)