境界確定の訴えで取得時効は中断されるか

境界が隣地との間で不明であり、争いがあるが、相手方が自分の主張する境界を超えて占有しているような場合、放置しておくと時効取得により相手方に取得されてしまう可能性があります。時効取得で問題になるのは、所有権の範囲といった私法上の境界です。」

なお、土地の境界線の紛争に関して、当事務所が活動した場合の弁護士費用は土地の境界線の争いに関する弁護士費用(境界確定)のページをご覧ください。

1 時効取得

  時効取得とは、占有している事実状態を保護する民法上の制度で、2種類あります。

(1)短期取得時効

   10年間所有の意思をもって平穏かつ公然に占有を継続し、自分に所有権があると信じ、その信じたことに過失がない場合に、時効援用の意思表示をすることによって取得できる制度です。

(2)長期取得時効

   20年間所有の意思をもって平穏かつ公然に占有を継続した場合に、時効援用の意思表示をすることによって取得できる制度です。短期取得時効より要件は少ないですが、その分、長期の占有が要求されます。

2 公法上の境界の確定と取得時効の関係

  最高裁昭和43年2月22日判決(民集22巻2号270頁)では、境界確定の訴えは、隣接する土地の境界が事実上不明なため争いがある場合に、裁判によって新たにその境界を確定することを求める訴えであって、土地所有権の範囲の確認を目的とするものではないので、取得時効の抗弁の当否は、境界確定には無関係であるといわなければならないとしています。

  したがって、公法上の境界の確定の訴えの中で、時効取得による所有権の取得を主張することは境界の確定には関係がないことになります。

3 境界確定の訴えが取得時効の中断事由になるか

  しかし、公法上の境界の確定において、時効取得の主張に意味がないとしても、所有権確認の訴えで私法上の境界を定める場合に、以前に行った公法上の境界確定の訴えが意味を持つかは別問題です。公法上の境界確定の訴えが、取得時効の中断事由として、民法147条1号、149条の「裁判上の請求」に当たるかが問題になります。

(1) 最高裁昭和38年1月18日判決(判時330号35頁)

    最高裁昭和38年1月18日判決では、「旧訴たる境界確定の訴提起によって生じた上告人の所有権取得時効を中断する効力は、その後の訴の交替的変更にも拘わらず、失効しないものというべき」としており、境界確定の訴えに時効の中断効を認めています。

(2) 最高裁平成元年3月28日判決(判時1393号91頁)

    最高裁平成元年3月28日判決は、「一般に、所有者を異にする相隣接地の一方の所有者甲が、境界を越えて隣接地の一部を自己の所有地として占有し、その占有部分につき時効により所有権を取得したと主張している場合において、右隣接地の所有者乙が甲に対して右時効完成前に境界確定訴訟を提起していたときは、右訴えの提起により、右占有部分に関する所有権の取得時効は中断するものと解されるが」として、境界確定の訴えに取得時効の中断効を認めたうえで、結論としては具体的事情を考慮して中断効を認めませんでした、上記最高裁判決の事案は、境界確定の訴えと同時にされた所有権に基づく明渡訴訟をしましたが敗訴し、その面では時効の中断効を享受できないことになったので、所有権に基づく明渡請求訴訟において提起者の所有権を否定する消極的判断がされた以上、これと併合審理された境界確定訴訟の関係においても同様の判断がされたものとして取得時効の中断効を否定するというものでした。

   したがって、一般的に境界確定の訴えで取得時効は中断されることになります。ただ、あくまでも境界確定の訴えと所有権確認の訴えは、私法上と公法上の境界という別の問題に関する解決方法ですから、争いになっていることについて正確に把握し、適切な手段をとる必要があります。(弁護士中村友彦)。