従業員が引き抜かれた!

 競業に伴って従業員が引き抜かれることがありますが、その態様によっては法的な責任が生じることもあります。

違法性の判断基準

 引き抜きが違法か否かにつき、大阪地判平成14年9月11日・労働判例840号62頁(フレックスジャパン対アドバンテック事件)は次のように判断しています。

大阪地判平成14年9月11日

「従業員は、使用者に対し、雇用契約に付随する信義則上の義務として就業規則を遵守するなど雇用契約上の債務を誠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負い、従業員がこの義務に違反した結果、使用者に損害を与えた場合は、これを賠償すべき責任を負うというべきである。そして、労働市場における転職の自由の点からすると、従業員が他の従業員に対して同業他社への転職のため引き抜き行為を行ったとしても、これが単なる転職の勧誘にとどまる場合には、違法であるということはできない。仮にそのような転職の勧誘が、引き抜きの対象となっている従業員が在籍する企業の幹部職員によって行われたものであっても、企業の正当な利益を侵害しないようしかるべき配慮がされている限り、これをもって雇用契約の誠実義務に違反するものということはできない。しかし、企業の正当な利益を考慮することなく、企業に移籍計画を秘して、大量に従業員を引き抜くなど、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合には、このような引き抜き行為を行った従業員は、雇用契約上の義務に違反したものとして、債務不履行責任ないし不法行為責任を免れないというべきである。そして、当該引き抜き行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかの判断においては、引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数、従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響、引き抜きの際の勧誘の方法・態様等の諸般の事情を考慮すべきである。また、従業員が勤務先の会社を退職した後に当該会社の従業員に対して引き抜き行為を行うことは原則として違法性を有しないが、その引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合には、違法な行為と評価されるのであって、引き抜き行為を行った元従業員は、当該会社に対して不法行為責任を負うと解すべきである。」

具体例

東京地判平成3年2月25日・判例時報1399号69頁(ラクソン事件)

 従業員の同業他社への大量移籍が計画的、背信的であるとして、これを実行した移籍グループのリーダーに雇用契約上の債務不履行、同グループを引き抜いた新雇用主に不法行為が成立するとされました。

大阪地判平成14年9月11日・労働判例840号62頁(フレックスジャパン対アドバンテック事件)

 企業の正当な利益を考慮することなく、企業に移籍計画を秘して、大量に従業員を引き抜くなど、引抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合には、このような引抜き行為を行った従業員は、雇用契約上の義務に違反したものとして、債務不履行責任ないし不法行為責任を免れないとされました。

東京地判平成17年9月27日・労働判例909号56頁(アイメックス事件)

 退職する前から同業他社と連絡をとりつつ、原告の従業員を勧誘し、集団で原告を退職し、同業他社に移籍することを計画しており、このような態様による集団退職により原告の経営に影響を及ぼしかねないものであり、被告両名が原告の顧客情報を原告から持ち出したことを併せ考えれば、移籍後、原告の顧客を奪うなどする意図があったことがうかがわれるので、同業他社への移籍として、相当性を欠くものと認められ、被告両名には、原告の就業規則および競業避止等契約に規定された競業避止義務違反があるとされました。

 

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(弁護士 井上元)