同一労働同一賃金について

 正社員と契約社員(有期契約労働者など)・パートタイム労働者・派遣社員とでは、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情などにより労働条件に相違があり得ますが、その相違が不合理と認められるものであってはなりません。

 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)については労働契約法20条で「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」とが規定されており、近時、話題になった最高裁判例も現れています(ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件)。

 平成30年6月に働き方改革関連法が成立し(7月6日公布)、同一労働同一賃金等に関する規定が整理されています。

 また、最高裁は、令和2年(2020年)10月13日、同年10月15日と立て続けに重要な判決を下しています。

最高裁判例(ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件)

最二小判平成30・6・1民集72巻2号88頁(ハマキョウレックス事件)

トラック乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で、有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、①皆勤手当は出勤する乗務員を確保する必要があることから皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである、②乗務員については有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない、③就業規則等において有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが昇給しないことが原則であるとされているうえ皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない、などの事情のもとにおいては労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされました。

最二小判平成30・6・1民集72巻2号202頁(長澤運輸事件)

無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で定年退職後に再雇用された有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされました。

最高裁令和2年10月13日、10月15日判決

最三小判令和2・10・13裁判所HP(令和1年(受)1055号)

無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされました。

最三小判令和2・10・13裁判所HP(令和1年(受)1190号)

無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされました。

最一小判令和2・10・15裁判所HP(平成30年(受)1519号)

無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされました。

最一小判令和2・10・15裁判所HP(令和1年(受)777号)

私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与える一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされました。

最一小判令和2・10・15裁判所HP(令和1年(受)794号)

無期契約労働者に対して年末年始勤務手当、年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれらを支給しないという労働条件の相違がそれぞれ労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされました。

法律改正

パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法が次のように改正されます。

1 不合理な待遇格差の禁止

有期雇用・パートタイム

 これまで、有期雇用労働者については労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)で、パートタイム労働者については短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)の第8条(短時間労働者の待遇の原則)及び第9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)で規定されていました。

 改正後は、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)は短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)と名称を変え、有期雇用労働者及びパートタイム労働者の双方につき同法8条、9条で規定されます。

改正内容
⑴「均衡待遇規定」の内容(不合理な待遇差の禁止)(改正法8条)

①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差が禁止されます。

 従来、有期雇用労働者については労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)で、パートタイム労働者については短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条(短時間労働者の待遇の原則)で規定されていました。一本化されたことにより、労働契約法20条は削除されます。

⑵「均等待遇規定」の内容(差別的取扱いの禁止)(改正法9条)

①職務内容(業務の内容+責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、差別的取扱いが禁止されます。

 従来、有期雇用労働者については規定がなく、パートタイム労働者については短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)で規定されていました。改正法では、双方に適用されます。

改正法条文
パートタイム・有期雇用労働法

第8条(不合理な待遇の禁止)

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

派遣労働者

改正内容

派遣元事業主は、次のいずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされています。

⑴ 派遣先労働者との均等・均衡方式

①派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇・均衡待遇規定を創設。

②教育訓練、福利厚生施設の利用、就業環境の整備など派遣先の措置の規定を強化。

⑵ 労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式

 派遣元事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と以下の要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて待遇決定。(派遣先の教育訓練、福利厚生は除く。)

2 労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化

 非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになります。

<雇入れ時>

 有期雇用労働者に対する、雇用管理上の措置の内容(賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員転換の措置等)に関する説明義務を創設。

<説明の求めがあった場合>

 非正規社員から求めがあった場合、正社員との間の待遇差の内容・理由等を説明する義務を創設。

<不利益取扱いの禁止>

 説明を求めた労働者に対する場合の不利益取扱い禁止規定を創設。

3 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

 行政による助言・指導等や行政ADRの規定を整備します。

 都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。

4 施行日

 令和2年(2020年)4月1日です。

 ただし、中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日からとなります。

同一労働同一賃金ガイドライン

 正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金を実現するため、「同一労働同一賃金ガイドライン」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)が策定されています。

 ガイドラインでは、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理なものでないのか、原則となる考え方及び具体例が示されています。原則となる考え方が示されていない待遇や具体例に該当しない場合については、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれます。基本給、昇給、ボーナス(賞与)、各種手当といった賃金にとどまらず、教育訓練や福利厚生等についても記載されています。

「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要

パートタイム労働者・有期雇用労働者

①基本給
  • 基本給が、労働者の能力又は経験に応じて支払うもの、業績又は成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、その趣旨・性格が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
  • 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについては、同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならない。
②賞与
  • ボーナス(賞与)であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
③各種手当
  • 役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。
  • そのほか、業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当、交替制勤務などに応じて支給される特殊勤務手当、業務の内容が同一の場合の精皆勤手当、正社員の所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った場合に支給される時間外労働手当の割増率、深夜・休日労働を行った場合に支給される深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当、同一の支給要件を満たす場合の単身赴任手当、特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する地域手当等については、同一の支給を行わなければならない。

<正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で賃金の決定基準・ルールの相違がある場合>

  • 正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で賃金に相違がある場合において、その要因として賃金の決定基準・ルールの違いがあるときは、「正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」という主観的・抽象的説明ではなく、賃金の決定基準・ルールの相違は、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして、不合理なものであってはならない。

<定年後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い>

  • 定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用される。有期雇用労働者が定年後に継続雇用された者であることは、待遇差が不合理であるか否かの判断に当たり、その他の事情として考慮されうる。様々な事情が総合的に考慮されて、待遇差が不合理であるか否かが判断される。したがって、定年後に継続雇用された者であることのみをもって直ちに待遇差が不合理ではないと認められるものではない。
④福利厚生・教育訓練
  • 食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与を行わなければならない。
  • 病気休職については、無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行わなければならない。
  • 法定外の有給休暇その他の休暇であって、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければならない。特に有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して勤続期間を評価することを要する。
  • 教育訓練であって、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。

参考サイト

 

労働法務(会社側)に関するご相談は雇用・労働をご覧ください。

 

また法律情報navi» 雇用・労働もあわせてご覧ください。

(弁護士 井上元)