懲戒処分の注意点
Q 会社が従業員に対して懲戒処分をすることができるのでしょうか? |
A 非違のある従業員に対して懲戒処分をすることもありますが、適正に行う必要があります。適正でない懲戒処分については無効だとの争いになり得ます。
懲戒処分の法的根拠
最判昭和58・9・8最高裁判所裁判集民事139号393頁(関西電力事件)
労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものであるところ、右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり(最高裁昭和45年(オ)第1196号同49年2月28日第一小法廷判決・民集28巻1号66頁参照)、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。
最判平成15・10・10最高裁判所裁判集民事211号1頁(フジ興産事件)
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和49年(オ)第1188号同54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
懲戒処分のルール
労働契約法15条(懲戒)では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定されているところ、具体的には次の1~3の要件により判断されています。
- 懲戒処分事由該当性
- 処分の相当性(懲戒権濫用ではないこと)
- 手続の相当性(適正手続)
懲戒事由の具体例
次のような場合に争われることが多いようです。
- 職務懈怠(無断欠勤、遅刻・早退過多、職場離脱、勤務状況・勤務成績不良等)
- 業務命令違反
- 職場規律違反・不正行為
- 経歴詐称
- 企業内政治活動・組合活動・争議行為
- 企業「外」の行動(犯罪行為・企業情報等の漏洩、兼業・競業行為、社内不倫、その他の私生活上の行為)
懲戒処分の具体例
次のような処分があります。
- 譴責・戒告・始末書提出処分
- 減給処分
- 出勤停止・懲戒休職
- 降職・降格処分
- 懲戒解雇・諭旨解雇処分
(弁護士 井上元)
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