成年後見

1 成年後見制度とは?

例えば、認知症が進行して不動産・自動車などの売り買いが自分ではできない、日用品の購入すら行うことができないといった状況になった場合、誰かが本人に代わって取引を行ったり、財産や生活を守る必要があります。

そのための制度が成年後見制度です。これには、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人等を選任する「法定後見」と、本人が判断能力のあるうちに、将来、判断能力が衰えたときに備えて事前に後見人を選んでおく「任意後見」とがあります。

2 法定後見とは?

民法で、法定後見として、「後見」、「保佐」および「補助」の3つの制度が定められています。

(1)後見

後見とは、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にある場合、本人または親族(配偶者または4親等内の親族)などの申立てにより、家庭裁判所が、後見開始とともに成年後見人を選任する制度です(民法7条、8条、843条)。

後見開始相当とされる判断能力の程度は、日常的に必要な買い物も自分ではできず、誰かに代わってやってもらう必要があるという程度です。

成年後見人には、本人の財産に関する法律行為についての包括的な代理権(民法859条)と、日用品の購入その他日常生活に関する行為と除く法律行為の取消権(同法9条)が付与されます。

(2)保佐

保佐とは、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分」な状況にある場合、本人または親族(配偶者または4親等内の親族)などの申立てにより、家庭裁判所が、保佐開始とともに保佐人を選任する制度です(民法11条、12条、876条の2)。

保佐開始相当とされる判断能力の程度は、日常の買い物程度は単独でできるが、重要な財産行為(不動産・自動車の売り買いや自宅の増改築、金銭の貸し借り等)は自分ではできないという程度です。

保佐人には、民法13条に規定されている行為(不動産の処分など)についての同意権・取消権が付与されます。また、当事者の選択により、家庭裁判所に申し立てることで、代理権付与の審判により、特定の法律行為についての代理権が付与されます(民法876条の4)。

(3)補助

補助とは、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分」な状況にある場合、本人または親族(配偶者または4親等内の親族)などの申立てにより、家庭裁判所が、補助開始とともに補助人を選任する制度です(民法15条、16条)。

補助開始相当とされる判断能力の程度は、重要な財産行為(不動産・自動車の売り買いや自宅の増改築、金銭の貸し借り等)について、自分でもできるかもしれないが、できるかどうか危惧がある(本人の利益のためには、誰かに援助してもらったほうがよい)という程度です。

補助人には、申立人の選択により、家庭裁判所に申し立てることで、個別具体的に同意権・取消権(同法17条)、代理権(同法876条の9)が付与されます。ただし、本人以外の者が申し立てる場合には、補助開始、同意権・取消権付与および代理権付与には、本人の同意が必要です(同法15条、17条)。

(以上、井上・那須・飛岡著「Q&A任意後見入門」民事法研究会より。)

3 任意後見とは?

任意後見とは、本人が判断能力のあるうちに、将来、判断能力が衰えたときに備えて事前に後見人を選んでおく制度であり、任意後見受任者との間で公正証書により任意後見契約を締結します。そして、本人の判断能力が衰えたとき、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、任意後見受任者が任意後見人となって、任意後見監督人の監督を受けながら後見事務を行うことになります。

【当事務所の解決事例】

(1)遠縁の親戚が老齢のご本人の面倒を見ていたところ、ご本人が、自分の判断能力が衰えたときには面倒を見てもらっている人に後見人になってもらい、引き続き面倒を見てほしいと希望されたため、任意後見契約書を作成しました。また、あわせて、面倒を見ていた遠縁の親戚の方には相続権がなかったので、公正証書遺言によりその方に財産を遺贈されました。

4 どのような場合に後見人が必要か?

(1)親族間で紛争はないが財産管理のために必要なケース

本人の判断能力が多少衰えた場合であっても、子供達が老齢の親である本人のキャッシュカードを利用して銀行から出金し、親のために日常の買物を行う程度であれば、特段の支障はないものと思います。しかし、定期預金を解約したり、不動産を売却して老人ホームに入居したいというような場合、本人に判断能力がなければ、これらを行うことができません。

そこで、上記のケースでは、子供達が相談して、認知症が進行した親のために子供のうち1人が後見人となって親の財産管理や身上監護を行うことになります。

【当事務所の解決事例】

(1)認知症の親の兄弟姉妹が死亡し、親が相続人の1人として家庭裁判所に遺産分割調停の申立がされた事案において、子供のうちの1人を後見人に選任してもらい、当事務所が後見人の代理人として遺産分割調停手続を進めました。

(2)親が障害のある子の後見人に選任され、当事務所が後見人の代理人として子の離婚訴訟手続を進めました。

(2)親族の1人が認知症である親の財産を私的に使用しているケース

子供のうちの1人が親の通帳などを勝手に使用してお金を引き出しているようなケースがあります。このような場合、他の子としては、家庭裁判所に親のため後見人を選任してくれるよう申立てることになります。このような紛争案件では、原則として、家庭裁判所は第三者の専門家である弁護士などを後見人に選任し、後見人が親の財産を費消した者に対して返還請求することになります。

【当事務所の解決事例】

(1)きょうだいが親の財産を自分のものとしていたので、当事務所が他のきょうだいからの依頼で後見人選任の申立てをしました。

5 手続の流れ

(1)当事務所での相談

(2)必要書類の準備

(3)家庭裁判所に後見人等選任の申立

(4)家庭裁判所による審理(即日事情聴取など)

(5)後見人選任

6 弁護士費用

(1) 法律相談

30分 5,500円(税込)

ただし、当事務所に後見人等選任申立手続をご依頼いただいた場合には相談料は無料です。

(2) 法定後見申立

1.紛争性がない事案(※1)

着手金 22万円(税込)

報酬 原則なし。ただし、多額の財産があったり、特に困難な案件の場合には別途報酬のご相談をさせていただきます。

※1紛争性がない事案とは、後見人選任自体には紛争性がない事案です。例えば、(1)親の財産管理のため子供達全員が協力している事案、(2)遺産分割調停や交通事故による損害賠償請求などの手続上後見人選任が必要な事案です。

申立ての費用、診断書の取得費などの実費が別途必要です。場合によっては鑑定料(10万円程度)が必要なことがあります。

交通事故の被害者で加害者に対する損害賠償請求のため後見人選任の必要がある方で、当事務所に交通事故の損害賠償請求をご依頼いただく場合には後見申立の弁護士費用は無料とさせていただきます(ただし、加害者が任意保険に加入している場合のみ)。

2.紛争性がある事案(※2)

着手金 33万円(税込)

報酬 22万円(税込)を基本とし、個別に見積もりをさせていただきます。

※2紛争性がある事案とは、例えば、他のきょうだいが親の財産を取り込んでおり、後見人選任自体が争われるような事案です。

申立ての費用、診断書の取得費などの実費が別途必要です。場合によっては鑑定料(10万円程度)が必要なことがあります。

(3) 任意後見契約

手数料 22万円(税込)

公証人の費用、資料取寄費用などの実費が別途必要です。

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