業者に共有持分を売却をすべきか否か
Q 共有不動産の持分のみを買取ってくれる業者がいますが、他の共有者と話し合いができない状況なら、このような業者に売却してしまった方がよいのでしょうか? |
A ケースバイケースだと思います。売却することのメリット・デメリットを十分に理解して決めるべきです。
業者による共有持分のみの買取り
共有物分割の交渉
業者が共有持分のみを買取った後に何をするかと言えば、他の共有者と共有物分割の交渉をすることになります。
すなわち、
- 現物での分割
- 他の共有者の持分を買い取って売却するか、取得した共有持分を他の共有者に買い取ってもらう
- 共同で売却して代金を分配する
などの交渉を行います。
共有物分割請求訴訟の提起
交渉で解決しなければ、共有物分割請求訴訟を提起し、
- 現物分割
- 価格賠償(共有者のどちらかがお金を支払って他の共有者の持分を取得する)
- 競売分割
のいずれかを命ずる判決を取得して共有物分割を実現します。
共有持分のみを買取った業者は、まず、交渉で解決しようとするはずです。それが早く解決し、且つ、利益が上がるからです。
しかし、交渉で解決しない場合であっても、共有物分割請求訴訟を提起すれば解決します。
このように、交渉で解決しなくとも、共有物分割請求訴訟を提起すれば解決して利益を得ることができるからこそ、共有持分のみを買取るのです。
業者の利益
それでは、共有持分のみを買取った業者は、どのくらいの利益を得るのでしょうか?
当該不動産の時価が1億円、AとBの共有で(持分各自2分の1)、業者CがAの共有持分(時価5000万円)を時価の半額の2500万円で買い取ったとします。
業者Cは、BにCの持分を時価5000万円で買い取ってもらうことができれば、2500万円の利益となります。
逆に、Bの持分を時価5000万円で買い取り、当該不動産を時価の1億円で売却すれば、2500万円の利益となります。
あるいは、Bと共同して時価1億円で売却すれば、やはり、2500万円の利益となります。
交渉で解決しなくても、共有物分割請求訴訟を提起すれば同じような解決となります。
上記はざっくりとした計算であり、実際はいろいろな費用がかかりますが、業者の買取り価格は時価の2分の1よりも低いこともあるはずです。
共有持分を業者に売却する際に考慮すべきこと
共有持分を業者に売却するか否かについては、次のメリット・デメリットを考慮してください。
メリット
他の共有者とかかわらずにすむ
他の共有者との関係が極度に悪化しておれば、その方とかかわりたくないと思います。業者に持分を売却すれば、一切のかかわりを持たないですみます。
分割手続を自分で行う必要がない
自分が共有持分権者として交渉や訴訟を提起する場合、弁護士を代理人に立てても、弁護士との打ち合わせが必要です。業者に持分を売却すれば、このような煩わしさを免れることができます。
デメリット
自分が他の共有者の持分を取得することができない
自分が当該不動産の全部を取得したくても、業者に売却すれば、これは実現しません。
自分の手元に残る金額が少なくなる
自分で共有物分割請求をするよりも、業者に売却した方が手元に残る金額が少なくなると思われます。
例えば、当該不動産の時価が1億円、AとBの共有(持分各自2分の1)のケースで説明します。
Aが弁護士に依頼して共有物分割請求を行った場合の弁護士費用は、例えば、当事務所では、着手金40万円(税別)、報酬は持分額の6%(税別)の300万円(税別)、合計340万円となります。訴訟となって印紙代や不動産鑑定費用を要したとしても、合計500万円を超えることはないと思います。そうすると、共有持分が時価5000万円で換金できれば、4500万円が手元に残ることになります。業者に2500万円で売却した場合よりも多くのお金が手元に残ることになります。
紛争性が高く、結局、競売によらざるを得ない場合には競売の費用がかかりますし、売却価格も低くなる可能性がありますが、一方、そのように紛争性の高い案件では業者の買取り価格はもっと低くなる可能性があります。
共有持分を業者に売却する前にやっておくべきこと
自分の共有持分を業者に売却しようとお考えの方は、その前に次のことを行っていただきたいと思います。
共有物分割の見通しを立てる
どのような手続で、どのような分割となるかの見通しを立てることが重要です。
当該不動産の時価を調べる
自分で共有物分割の手続をすれば手元にどの程度の金額が残るのか、業者に売却すればどの程度の利益を失うことになるのか、なるべく正確に理解することが重要です。
共有持分を業者に売却しようかとお考えの方は、一度、当事務所にご相談ください。
「Q&A共有物分割請求訴訟の実務と法理」出版のご案内
弁護士井上元がAmazonで「Q&A共有物分割請求訴訟の実務と法理」を出版しました。この本は、共有物分割請求訴訟についての多数の裁判例を整理、分析して体系化したものです。豊富な実例を紹介しQ&Aにより分かりやすく解説しています。
ご希望の方は、Amazonのサイト「Q&A共有物分割請求訴訟の実務と法理」のページからお買い求めください。※法律専門家の方を対象としています。
(弁護士 井上元)
共有物分割に関するご相談は共有物分割のトラブルのページをご覧ください。




