共有持分買取業者による共有物分割請求訴訟の提起

Q 共有持分買取業者が他の共有者に対し共有物分割請求を行うことに問題はないのですか?

A 令和8年1月時点で、これを問題とした裁判例は見当たりませんが、譲渡制限株式の買取りを事業とする会社との売買が弁護士法73条に違反して無効であるとする大阪高等裁判所令和6年7月12日判決が現れており、共有物分割請求においても参考になります。


 大阪高判令和6・7・12判タ1530号86頁は、譲渡制限株式を譲り受けて、当該株式の発行会社に対して譲渡承認請求をし、売買価格の決定の申立てをすることなどによってその権利の実行をすることを業とする行為が、弁護士法73条に違反するとしています。この理屈が共有持分買取業者による共有物分割請求にも適用されるか否かは今後の議論によるところですが、参考となりますので紹介します。

大阪高判令和6・7・12判タ1530号86頁

事案の概要

⑴ Yは、Y社との間で、Yが保有するX社の無議決権株式52株のうち40株(本件株式)を代金4800万円で売却する旨の契約(本件売買契約)を締結した。

⑵ 本件株式は譲渡制限株式であり、Y社が、Yと共同して、X社に対し、本件株式の譲渡について承認するか否かの決定をすることを請求したところ、X社は、本件株式を買い取る者としてXを指定し、Xは、Y社に対し、本件株式を買い取る者として指定を受けた旨等を通知した。

⑶ Xらが、本件売買契約は通謀虚偽表示に当たり、又は弁護士法72条、73条に違反して無効であると主張して、①X社において、Yに対し、YがX社の無議決権株式52株を有する株主であることの確認を求め、②Xにおいて、Y社に対し、上記の通知により締結したものとみなされた売買契約に基づく代金債務が存在しないことの確認を求めた。

⑶ 原審は、本件売買契約は無効とはいえないと判断し、①X社の請求をYがX社の無議決権株式12株を保有する株主であることの確認を求める限度で認容し、その余を棄却し、②Xの請求を棄却したところ、Xらが控訴した。

高裁の判断

高裁は次のように述べて、X社とXの売買契約は弁護士法73条に反して無効であると判断しました。

争点3(本件売買契約は弁護士法73条に違反し無効か)について

(ア)以上によれば、本件事業は、譲り受ける譲渡制限株式について、株主たる地位を取得するのではなく、その実質価格と経営判断価格との差額を事業利益とすることを主な事業目的として(略)、主に発行会社側と売買価格の協議が調わない当該株式の株主からこれを譲り受け(略)、その譲受けの約9割で株主たる地位を取得せず、上記差額に相当する巨額の事業利益を上げ、これを個人投資家に高利回りで還元する(略)事業と認められる。そして、本件売買契約は、本件事業の一環として、上記事業目的のために締結されたものであり(略)、Y社は、Xとの間で売買価格の協議が調わなかったYから(略)、Xの提示価格の2倍を超えはするものの、本件実質価格に対しては3分の1程度にとどまる本件合意価格をもって、その乖離を認識しつつそれを告げずに本件売買契約を締結し(略)、売却価格決定手続により差額に相当する事業利益を得ようとしているものであり(略)、当該利益を得るためXが承認を差し控えることを企図する事業活動を行っていることも強く疑われるものでもある(略)。

以上の事情の下では、本件事業の業として行われた本件売買契約の締結は、少なくとも本件株式の売買価格に関する紛議を助長するものというべきである。

また、Y社について弁護士法72条所定の報酬を得る目的は認められないとしても、同条は、弁護士資格もなく、何らの規律にも服しない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置すると、国民の法律生活の公正かつ円滑な営みが妨げられることから、かかる行為を禁圧する趣旨の規定と解される(最高裁昭和46年7月14日大法廷判決・刑集第25巻5号690頁)。そして、以上の事情によれば、本件事業は、弁護士資格のないY社が、自らの事業利益のために、譲渡制限株式の株主から、株主たる地位を取得せず、当該株式の実質価格と経営判断価格との差額を事業利益とする目的で当該株式を譲り受け、売買価格決定手続を利用するなどして、本来当該株主に帰属すべき実質的な企業価値を自らの事業利益とし、当該株式とは無関係の一般投資家に分配するというものである。このような業を放置すると、譲渡制限株式の株主が投下資本を回収する利益を保護するために設けられた売買価格決定手続(略)の公正かつ円滑な営みは妨げられるというべきであるから、本件事業の業とする行為は、弁護士法72条本文の禁止を潜脱する行為に当たるというべきである。

(イ)これに対し、Yらは、発行会社が譲渡制限株式の譲渡を承認すれば売買価格についての紛争は生じないと主張する。

しかし、本件事業において承認がされた例は約1割にとどまるし(略)、本件事業は、むしろ株主たる地位を取得しないことを事業目的とするのであるから(略)、承認の可能性があるからといって、売買価格に関する紛議を助長するおそれ(略)が否定されるものではない。しかも、Y社は、自身が好ましからざる株主となるであろうことを示唆する事業活動を行ったことが強く疑われるところ(略)、このような事業活動は、承認に関する紛議をも助長し、会社法上保護された好ましくない者が株主となることを防止する会社の利益(略)を自らの事業利益のために利用するものとして、発行会社の法律生活上の利益も害するものというべきである。このような疑いのある本件売買契約について、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがないと認めることは困難である。

Xらは、本件合意価格がXの提示価格の2倍を超えており、Yが、本件実質価格やY社が同価格での売却を求めていることを知っても、本件合意価格に満足していることや顧客からの支持を挙げて、国民の法律生活上の弊害の有無については、譲渡人側の有用性も考慮すべきであるとも主張する。

確かに、Yは同旨の供述をしているし、本件事業は、主な顧客に支持されてもいる(略)。しかし、弁護士は、厳格な資格要件の下、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、広く法律事務を行うことを職務とし、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服する者であるから、会社法に基づく手続に時間、労力、費用がかかるとしても、発行会社側と売買価格で協議が調わない者に、本来得るべき実質的な企業価値を取得させることが期待される。そして、Yは、本件売買契約締結前に本件実質価格と本件合意価格との乖離を告げられていないから(略)、その乖離と会社法に基づく手続に要する時間、労力、費用とのいずれを甘受するかを比較検討した上で、本件売買契約の締結を選択したとは認められない。このことは他の顧客についても同様である。仮にY社の顧客が上記比較検討をした上で本件事業を支持しているとしても、その例は令和4年まででわずか60件にすぎないのであるから(略)、そのことから、広く弁護士が職務とする法律事務と対比して、譲渡制限株式の株主の投下資本の回収に関わる法律生活上の利益に対する弊害を否定することは困難であって、結局、顧客の支持やY1の満足は、弁護士法72条に関する前記(ア)の判断を左右しない。

なお、譲渡制限株式の株主のうち少数株主は、通常、配当額の決定について影響力を行使することができず、役員に就任して報酬を得る保証もなく、譲渡制限株式を譲り受ける者が現れない限り、会社法に基づく手続によらなければ、投下資本を回収することができない立場にあるから、少数株主にとっては、その投下資本を回収するために、譲渡制限株式の譲受事業に対するニーズがあることは否定できない。しかし、上記ニーズは、個別具体的な本件事業について、直ちに国民の法律生活上の弊害を正当化するものではない。また、上記ニーズ自体についても、①少数株主が、当該株式を引き受け、又は譲り受ける時点で既に譲渡制限株式であれば、そのような立場となることを承知の上で株主となったものというべきこと、②当該株式を引き受け、又は譲り受けた後に定款が変更されて譲渡制限株式となったのであれば、反対株主の株式買取請求権を行使することができること(会社法116条1項2号)、③相続、破産その他自身の意思によらずにこれを取得した場合も、遺産分割や会社法に基づく手続は保障されていることからすると、上記ニーズは、国民の法律生活上の利益として保護すべき必要性が高いニーズであるとは必ずしもいえない。

(ウ)以上によれば、Y社が本件事業の業として行った本件売買契約の締結は、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがないとはいえず、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとは認められないから、本件売買契約は弁護士法73条に違反して無効である。

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(弁護士 井上元)

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