農地賃貸借契約の解除・解約

Q 農地の賃貸借契約を解除・解約するための手続を教えてください。

A 農地の賃貸借契約を解除、解約申入れ、合意解約、更新拒絶をするためには、原則として、知事の許可を受けなければなりません(農地法181項)。これには例外が定められていますが、解除、解約等についても規制されているのが農地法の特徴の一つであり注意が必要です。地代不払いのような債務不履行による場合であっても許可が必要なのです。


解除・解約のための知事の許可

許可の必要性

 農地の賃貸借の当事者は、都道府県知事等の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはなりません(農地法18条1項)。これに違反すると罰則の適用があります(同法64条1号)。

 このように、農地賃貸借契約の解除等につき知事の許可を要するとされている趣旨は、農地等の賃借権を保護し、賃借人の地位の安定を図るためです。

許可の対象

 許可が必要であるのは賃貸借の解除、解約の申入れ、合意による解約、賃貸借の更新拒絶です。

 解除・解約に許可を要するのは、賃貸借契約であって、永小作権、地上権、使用貸借権などの解除・解約に許可は不要です。

 また、次の各号のいずれかに該当する場合は、許可は不要です(農地法18条1項ただし書)。

  • 農業協同組合または農地中間管理機構の行う信託事業に係る信託財産につき行われる場合(1号)
  • 合意による解約が、その解約によって農地等を引き渡すこととなる日前6か月以内に成立した合意であり、かつ、その旨が書面において明らかである合意に基づいて行われる場合(2号)
  • 合意解約が農事調停によって行われる場合(2号)
  • 10年以上の期間の定めのある賃貸借について更新拒絶の通知をする場合(3号)
  • 水田裏作を目的とする期間の定めのある賃貸借について更新拒絶の通知をする場合(3号)
  • 解除条件付賃借権として3条1項の許可を受けて設定された賃借権に係る賃貸借の解除が、賃借人がその農地等を適正に利用していないと認められる場合で、あらかじめ、農業委員会に届け出て行われる場合(4号)
  • 農地中間管理機構が農地中間管理事業法2条3項1号に掲げる業務の実施により借り受け、または同項2号に掲げる業務の実施により貸し付けた農地等に係る賃貸借の解除が同法20条または21条2項の規定により都道府県知事の承認を受けて行われる場合(5号)

許可権者

 許可権者は都道府県知事です(農地法18条1項)。ただし、指定都市の区域内の農地等については、指定都市の長が許可権者となります(同法59条の2)。

許可手続

 農地等の賃貸借の解約等の許可を受けようとする者は、所定の事項を記載した申請書を、その3か月前までに農業委員会を経由して知事または指定都市の長宛の許可申請書を提出しなければなりません。

許可の条件

 許可は、条件をつけてすることができます(農地法18条4項)、

許可を受けないでした行為の効力

 許可を受けないでした解約等は効力が生じません(農地法18条5項)。違反者に対しては罰則の適用があります(同法64条)。

許可不要の解約の申入れ等の通知

 許可不要の場合に該当して解約等の申入れ等をした場合には、その解約の申入れ等をした者は、30日以内に、その旨を農業委員会に対して所定の事項を記載した通知書で通知しなければなりません。この場合、合意による解約をした場合には当事者双方が連署することが必要です(農地法18条6項、施行規則68条)。

賃借人に不利な賃貸借条件等

 農地法17条(農地等の賃貸借の更新)、民法617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)、618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)の規定と異なる賃貸借の条件でこれらの規定による場合に比して賃借人に不利なものは、定めないものとみなされます(農地法18条7項)。また、農地等の賃貸借に付けた解除条件または不確定期限は、付けないものとみなされます(同条8項)。

許可基準

 農地の賃貸借の解約等についての許可の申請があった場合には、その申請が、賃借人が信義に反した行為をした場合(1号)、農地等を転用することが相当な場合(2号)、賃貸人の自作を相当とする場合(3号)、農地中間管理権の取得に関する協議の勧告を受けた場合(4号)、農地所有適格法人の要件を欠いた場合等(5号)、その他正当の事由がある場合(6号)のいずれかに該当しなければ許可してはならないものとされています(農地法18条2項)。

 このうち、私人間における争いで特に問題とされるのは1号、2号、3号、6号です。

賃人が信義に反した行為をした場合(1号)

「信義に反した行為」とは、特段の事情がないのに通常賃貸人と賃借人の関係を持続することが客観的にみて不能とされるような信義誠実の原則に反した行為のことであり、例えば、賃借人の借賃の滞納、無断転用、田畑転換等の用法違反、無断転貸、不耕作、賃貸人に対する不法行為等の行為が想定されます。

農地等を転用することが相当な場合(2号)

 具体的な転用計画があり、転用許可が見込まれ、かつ、賃借人の経営及び生計状況や離作条件等からみて賃貸借契約を終了させることが相当と認められるか等の事情により判断されます。

賃貸人の自作を相当とする場合(3号)

 賃貸借の消滅によって賃借人の相当の生活の維持が困難となるおそれはないか、賃貸人が土地の生産力を十分に発揮させる経営を自ら行うことがその者の労働力、技術、施設等の点から確実と認められるか等の事情により判断されます。

その他正当の事由がある場合(6号)

 「その他正当の事由がある場合」とは、賃借人の離農等により賃貸借を終了させることが適当であると客観的に認められる場合です。これらの判断に当たっては、個別具体的な事案ごとに様々な状況を勘案し、総合的に判断する必要がありますが、法2条の2の責務規定が設けられていることを踏まえれば、賃借人が農地を適正かつ効率的に利用していない場合は、法18条第2項1号に該当しない場合であっても、同項6号に該当することがあり得、このため、賃貸借の解約等を認めることが農地等の適正かつ効率的な利用につながると考えられる場合には積極的に許可を行うべきであるとされています。

解除・解約等の手続

事前の許可の必要性

 解除等を行うには、事前に知事等の許可を受ける必要があります。これを受けないでした解除等の行為は効力を生じません(農地法18条5項)。違反すれば罰則の適用があります(同法64条1号)。

解除・解約等の意思表示

 賃貸人は、知事等の許可を受けた後、賃借人に対し、解除・解約等の意思表示を行うことになります。

 賃借人の債務不履行等の信義に反した行為をした場合には解除通知を、合意による解約の場合は解約の合意を、期間の定めのある賃貸借の更新拒絶の場合はその通知を行うことになります。

 期間の定めのない賃貸借契約の解約の申入れについては、1年の経過により賃貸借は終了しますが(民法617条1項1号)、収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節後次の耕作に着手する前に解約の申入れをしなければなりません(同条2項)。

明渡請求訴訟

 解除等をしても賃借人が任意に農地を明け渡してくれなければ、賃貸人は、賃借人に対し明渡請求訴訟を提起することになります。

 農地の賃貸借の解除・解約申入れは、知事等の有効な許可があれば、民法の規定に基づく意思表示によりその効力を生ずるのであって、明渡請求訴訟において、賃貸人は、許可があったことを主張立証すれば足り、そのほかに、さらに農地法18条2項各号所定の事由の存在を主張立証する必要はありません(最判昭和48・5・25民集27巻5号667頁)。

「Q&A共有物分割請求訴訟の実務と法理」出版のご案内

 弁護士井上元がAmazonで「Q&A農地売買・貸借等の実務と法理」を出版しました。この本は、農地の売買、賃貸借、賃貸借の解除・解約などに関する私人間の紛争についての多数の裁判例を整理、分析して体系化したものです。豊富な実例を紹介しQ&Aにより分かりやすく解説しています。

 ご希望の方は、Amazonのサイト「Q&A農地売買・貸借等の実務と法理」のページからお買い求めください。※法律専門家の方を対象としています。

(弁護士 井上元)

農地のトラブルに関するご相談は農地のトラブルのページをご覧ください。