農地の売主が許可申請に協力してくれない場合

Q 農地を買い受けたものの売主が許可申請手続に協力してくれない場合、どのようにすればよいのでしょうか?

A 農地の買主は、売主に対して、許可申請協力請求権を有しています。裁判によって許可申請手続を行うことを請求し、判決を得て、買主自らが許可申請手続を行うことになります。


 農地を耕作目的で売買等をする場合は農地法3条により、転用目的で売買等をするには同法5条により農業委員会や知事などの許可を受けなければなりません。許可を受けなければ当該売買等の効力は生じませんので、必ず許可申請をして、許可を受ける必要があります。

 市街化区域内の農地を転用目的で売買等する場合には、同法516号により事前の農業委員会に対する届出で足りますが、届出をしませんと、やはり売買等の効力が生じませんので、届出を行って受理される必要があります。

 上記許可申請や届出は、売主と買主の双方で行う必要があります。したがって、売主が許可申請や届出に協力してくれないと、買主としては有効に当該農地の所有権を取得することができず、所有権移転登記を受けることもできません。

許可申請協力請求権

 農地について売買契約が成立しても、知事等の許可がなければ農地所有権移転の効力は生じませんが、売買契約の成立により、売主は、買主に対して所有権移転の効果を発生させるため買主に協力して許可申請をすべき義務を負い(許可申請協力義務)、また、買主は売主に対して協力を求める権利(許可申請協力請求権)を有します(下記最判昭和50・4・11)。

 買主は売主が許可申請に協力しない場合には、売主に対して協力義務の履行を訴求することができ、この判決をもって許可申請の意思表示にかえることができます。この判決が確定すればこれを申請書に添付して単独で許可申請をすることができます。

 この売主の義務は、許可申請に協力する義務であって、買主に対し自らの責任において許可を取得し、所有権を移転しなければならない義務ではありません。

最判昭和50・4・11民集29巻4号417頁

 農地について売買契約が成立しても、都道府県知事の許可がなければ農地所有権移転の効力は生じないのであるが、売買契約の成立により、売主は、買主に対して所有権移転の効果を発生させるため買主に協力して右許可申請をすべき義務を負い、また、買主は売主に対して右協力を求める権利(以下、単に許可申請協力請求権という。)を有する。

売主の協力義務の内容

 売主の協力義務の内容について判断した裁判例もあります。

最判昭和49・12・17集民113号529頁

 農地につき転用目的の売買契約を締結した当事者は、たがいに協力して農地法5条の許可申請手続をする義務を負うのであるが、右の許可は、これを停止条件とする旨の約定があると否とにかかわらず、いわゆる法定条件としての性質を有するのであって、その許可がないかぎり農地について所有権移転の効力を生ずることはなく、また、右許否の決定は農地法の趣旨に照らし公共的見地に立ってされるのであるから、不許可とされた場合には売買契約はその効力を生じないことに帰するのである。したがって、売主は買主に対し、自らの責任において右の許可を取得して農地所有権を移転しなければならない義務を負うものと解することはできない。

 所轄農業委員会は、右許可申請をする売主及び買主に対し、許可についての判断資料の提出を求めることがありうるが、その不提出により許可をえられないおそれがある場合であっても、許否の決定にあたって考慮されるべき事項は、多岐にわたり、必ずしも売主、買主間の契約関係に含まれているものとは限られないから、所轄農業委員会が資料の提出方を求めたとの一事によって当然に売主又は買主がその相手方に対し資料をととのえたり、そのために第三者に一定の行為を求めたりするなどの義務を負うものとすることはできない。

 本件において農業委員会が提出を求めた隣接農地所有者の承諾書についてみると、原審の認定によれば、右提出要求の目的は要するに許否の判断資料の収集にあるというのであって、その趣旨は、農地の転用が周辺の農地に影響を及ぼすものであるところから、隣接農地の所有者が当該転用により起こりうべき被害を諒承している事実を示す資料として、許可についての事情とされる意味があるにすぎないものと解され、右の承諾書は、むしろ、転用後において買主が当該土地をどのように利用しあるいはこれが周辺農地に与える影響をどのように調整するか等の事情、すなわち買主側の事情にかかわるものということができるから、特別の事情のないかぎり、売主側に右承諾取付義務を課するのが相当であるとはいえない。また、右のように承諾の取付が許可の必須要件であるといえない以上、とくに承諾取付義務負担者についてなんの約定もされていない本件農地売買契約においては、売主を右負担者と解することが当事者の意思に合致するともいえないのである。したがって、Xらは、本件売買契約上の債務としてYに対し右承諾取付義務を負担するものということはできない。

許可申請手続請求権の消滅時効の問題

 許可申請協力請求権もしくは届出協力請求権は売買契約などに基づく債権的請求権であって、消滅時効の期間を経過すると時効によって消滅してしまうので注意が必要です。(最判昭和50411民集294417頁)。

 ただし、消滅時効の援用が信義則違反、権利濫用にあたるとした裁判例もありますので、消滅時効の期間が経過していても許可申請手続協力を求めることが可能なこともあります。

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(弁護士 井上元)

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