農地の時効取得
Q 農地を時効により取得することができるのでしょうか? |
A 農地にも取得時効の適用があり、一定期間自主占有すれば時効により取得することはできます。この場合、農地法の許可は不要です。
取得時効とは、事実上権利者であるような状態を継続する者に権利を取得させる制度のことを言います(民法162条以下)。
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得します(同法162条1項)。これを長期取得時効と言います。「所有の意思」とは、所有者として占有する意思のことであり、所有の意思をもってする占有を「自主占有」と言います。
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得します(同条2項)。これを短期取得時効と言います。長期取得時効の要件の他に、「その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったとき」(占有開始時の善意無過失)の要件が加わります。占有開始時の善意無過失とは、自分の物であると信じ、かつ、信じたことに過失がなかったことを言います。
農地の取得時効
自主占有か否か
農地売買においては、原則、農地法3条もしくは5条許可を受けていなければ所有権を取得することはできません。そのため、許可前の占有が自主占有と言えるか否かが問題とされましたが、最判昭和52・3・3民集31巻2号157頁以降、自主占有が認められています。
占有開始時の善意無過失
農地法の許可のない売買に基づいて農地の引渡しを受け、占有を開始した場合、占有開始時の善意無過失(自分の物であると信じ、かつ、信じたことに過失がなかった)であるか否かについては、原則として、有過失とされます。したがって、短期取得時効は成立せず、長期取得時効成立の有無が検討されることになります。
農地の時効取得と農地法の許可
時効による農地所有権の取得は原始取得であって、農地法3条の適用はありません。
最判昭和50・9・25民集29巻8号1320頁
農地法3条による都道府県知事等の許可の対象となるのは、農地等につき新たに所有権を移転し、又は使用収益を目的とする権利を設定若しくは移転する行為にかぎられ、時効による所有権の取得は、いわゆる原始取得であって、新たに所有権を移転する行為ではないから、右許可を受けなければならない行為にあたらないものと解すべきである。
時効取得と登記手続
時効による所有権の取得は原始取得であり、農地法所定の許可は不要ですから、所有権移転登記申請に際し許可証の添付は不要です。
ただし、時効取得を原因とする所有権移転登記申請をした場合には、「登記簿上の地目が田又は畑である土地について、時効取得を登記原因とした権利移転又は設定の登記申請があった場合は、登記官からその旨を関係農業委員会に対し適宜の方法により通知する。関係農業委員会宛ての通報は、電話連絡の方法によることも差し支えなく、また、司法書士が申請代理人である場合には、同人から事情聴取の上、必要があるときはしかるべく注意を喚起するのが相当である。」との取扱いがされています(昭和52・8・22民三4239)。取得時効制度を利用した農地法潜脱を防止する趣旨だと思われます。
届出
農地の所有権もしくは賃借権を時効により取得した者は、遅滞なく、農業委員会にその旨を届け出なければなりません(農地法3条の3)。
賃借権の取得時効
農地の賃借権についての時効取得が認められ、時効により取得について農地法の許可は不要とされています(最判平成16・7・13集民214号953頁)。
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