協議分割と裁判分割
Q 共有物を分割するためには、どのような方法があるのですか? |
A 共有者間で話し合って分割する方法(協議分割)と裁判で分割する方法(裁判分割)があります。協議分割の場合、ある程度の融通が利きますので協議分割で解決することが多いと思われます。しかし、協議分割ができなければ裁判で分割することができます。
共有者の1人が自分の主張を押し通そうとして、なかなか協議が進まないこともあります。このような場合、延々と協議を続けるよりも、早期に訴訟を提起した方が、結局、早期解決かつ公平な分割になる可能性が高いと思われます。
協議分割
協議による共有物分割が原則
各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができますが(民法256条本文)、裁判所に分割を請求するためには「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき」とされています(258条1項)。
すなわち、共有物分割は、第一次的には協議で行われるべきものとされているのです。
現金や預金を分割するのとは異なり、土地や建物などを分割するには、いろいろな方法があって、共有者間で話し合って、納得する方法で分割することが望ましいからです。
具体的な分割方法
裁判による共有物分割の方法については、①現物分割、②賠償分割(全面的価格賠償による分割)、②換価分割(競売分割)が規定されています(民法258条)。
協議分割の場合の分割方法についての規定はありませんが、裁判分割と同じように、①現物で分割する、②持分買取り(裁判の場合の価格賠償)、③任意売却して代金を分配する(裁判の場合の換価分割)の3つがあります。
裁判分割
協議が調わないとき
裁判所に分割を請求するためには「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき」である必要があります(258条1項)。
話合いが期待できない場合、まず他の共有者に対して内容証明郵便により共有物の分割を求めたうえで、訴訟を提起するというのが一般的です。
裁判管轄
どこの裁判所で裁判が行われるかという問題です。
- 原則として、被告となる他の共有者の住所地を管轄する裁判所です(民事訴訟法4条)。被告が複数である場合、共同訴訟として同じ訴訟で訴えることになります(同法38条)。
- 分割の対象が不動産である場合、不動産の所在地の裁判所にも管轄があります(同法5条12号)。
- 訴額が140万円を超えない場合には簡易裁判所の管轄ですが(裁判所法33条1項)、分割の対象が不動産である場合、地方裁判所にも管轄があります(同法24条1項)。
〔具体例〕
例えば、A(大阪在住)、B(名古屋在住)およびC(東京在住)の3人が、京都の土地を共有している場合で説明します。Aが、BとCを被告として共有物分割請求訴訟を提起する裁判所は、Bの住所地を管轄する名古屋地方裁判所、Cの住所地を管轄する東京地方裁判所、土地の所在地を管轄する京都地方裁判所のいずれかとなります。
訴額及び手数料
訴額とは、訴訟の目的の価額、すなわち訴訟物の価額であり、訴え提起において裁判所に納付すべき手数料の額の算出の基礎となります(民事訴訟費用等に関する法律4条1項)。
共有物分割請求訴訟の訴額については、「分割前の目的物に対して原告が有する共有持分の価額の3分の1の額」とされています。
不動産については固定資産評価額となりますが、土地については、現時点では、固定資産評価の2分の1となります。
〔具体例〕
例えば、AとBが土地と建物を各2分の1の割合で共有しており、土地の固定資産評価額が6000万円、建物の固定資産評価額が1500万円の場合で説明します。訴額は、土地(6000万円×1/2)+建物(1500万円)=4500万円の1/2(Aの持分)×1/3である750万円となります。これに対する裁判所の手数料(印紙代)は4万円です。
固有必要的共同訴訟
共有物分割請求訴訟は、各人につき判決がバラバラになることは許されず、合一に確定される必要があります。この場合、全員が訴訟の当事者となる必要があり、固有必要的共同訴訟と呼ばれています。
共有者全員が当事者とされていない訴訟は固有必要的共同訴訟の要件を欠き却下されますので注意してください。
〔具体例〕
例えば、A、BおよびCの3¥3人で共有している土地について、Aが共有物分割訴訟を提起する場合、Cのみを被告として訴訟を提起することは許されません。BとCの両名を被告として訴訟を提起する必要があります。
利益相反
多数の者の共有である場合、原告や被告は複数名となります。この場合、弁護士が、複数の原告もしくは複数の被告の代理人となることができるのでしょうか?
例えば、A、BおよびCの共有土地について、X弁護士がAおよびBの代理人としてCに対し訴訟を提起することが許されるのかという問題です。
民法108条で「同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」とされていますが、「ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。」と規定されています。
したがって、弁護士Xが、AとBの双方から、両名の代理人となることについて同意を得ておれば代理人となることが可能です。
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(弁護士 井上元)
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