不分割合意
Q 共有物を分割しない約束をすることもできるのですか? |
A 共有物を分割しない約束をすることもできますが(不分割合意)、5年を超えることはできません。
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができるのが原則ですが、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることができます(民法256条1項)。また、上記分割をしない旨の契約は更新することができますが、更新の時から5年を超えることはできません(同条2項)。
分割をしない旨の契約をしていると、その期間は、共有物分割請求訴訟を提起しても棄却されることになります。
ただし、共有物分割禁止の合意は登記なくして共有者の特定承継人に対抗できません(東京地判平成3・10・25判時1432号84頁)。
東京地判平成3・10・25判時1432号84頁
㈠ 本件において、本件合意に基づく共有物に関する債権は、本件土地を奥の駐車場への自動車の通路として使用させることを内容とするものであって、取りも直さず、本件土地について分割の禁止を求めるものにほかならない。したがって、本件において、民法258条1項(256条1項本文)の分割請求権と同法254条の共有物についての債権の承継との優劣が問題となる。
㈡ 共有者の内部関係の規律は、原則として共有者の意思に委ね、それに紛争が生じたときは、終局的には分割請求権を行使して、何時でも共有関係を解消できる(同法258条1項)。そして、この共有部分割の事由に対する例外として共有者は分割禁止の契約をする」とができる(同法256条1項ただし書)。しかし、その期間5年を超えることはできず(同条1項ただし書)、また、この契約は、更新することができるが、その期間も更新の時から5年を超えることはできない(同条2項)。
そして、この分割禁止の契約は、不動産については、その旨の登記をしなければ、共有者の特定承継人に対抗できない(不動産登記法39条の2※現不動産登記法59条6号)。このように、共有物分割禁止という物権的な合意が、基幹的に制限され、公示が要求されているにもかかわらず、分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意が、特定承継人に対して、公示することもなく、また期間の定めもなく永続的に対抗することができ、その結果、共有者が分割の請求をすることができないとすることは、分割請求権を認め、不分割契約に制限を設けた法の趣旨に反するものである。したがって、分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての債権的合意は、不動産登記法所定の登記をして初めて、共有者の特定継承人に対抗でき、しかも、その登記をしても、その不分割の契約の期間は5年を超えることができないというべきである。
㈢ そうだとすれば、前記のとおり分割禁止の契約と同様の効果を生ずる共有物についての本件合意は、不動産登記法所定の登記がされていないので、本件土地の共有者の特定承継人である原告に対抗できない。
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