「協議が整わない」の要件
Q 共有物分割請求訴訟を提起したところ、被告から「原告は話し合いをしようとしなかったから、この訴訟は認められるべきではない。」と主張されています。このような主張が認められるのでしょうか? |
A 共有物分割請求訴訟を提起するためには「協議が調わないとき」の要件が必要とされていますが、話合いを求めたものの、双方の主張が折り合わなければ「協議が調わないとき」に該当します。
民法258条1項で「共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。」と規定されており、共有物分割請求訴訟を提起するためには、先ず、他の共有者と共有物分割についての協議を試みることが必要です。これは、訴訟要件と解されており、協議がされていない場合、訴えは却下されます。
訴訟において、被告から「自分が納得できるだけの協議はされていない。」と主張されることもありますが、相手が納得するまで話し合いを尽くすことまで求められているわけではありません。話合いを求めたものの、双方の主張が折り合わなければ「協議が調わないとき」に該当します。
具体的に協議が行われていなくても、共有者の一部に共有物分割の協議に応ずる意思がないため共有者全員において協議をなしえない場合も含まれるとされています(最判昭和46・6・18民集25巻4号550頁)。
協議がなかったことを理由に訴えが却下されることはあまりなく、訴訟において被告が争っておれば、「協議が整わない」と認定されるのが通常だと思われますが、訴訟提起前に、書面により協議を申し入れておくべきでしょう。
最判昭和46・6・18民集25巻4号550頁
民法258条1項にいう「共有者ノ協議調ハサルトキ」とは、共有者の一部に共有物分割の協議に応ずる意思がないため共有者全員において協議をなしえない場合を含むものであって、必ずしも所論のように現実に協議をした上で不調に終ったに限られるものではない(大審院昭和12年(オ)第1923号同13年4月30日判決法律新聞4276号8頁)。
東京地判令和3・9・27判例秘書(平成29(ワ)31084外)
被告は、原告が本件通知書を送付し、被告が逡巡している間に本件訴訟を提起したのであるから、民法258条1項所定の協議が調わないときに該当しないと主張する。しかし、~被告は、本件通知書に対する回答を何らしていない上、本件訴訟に至っても、原告と被告は分割の方法について合意に達していないのであるから、民法258条1項所定の協議が調わないときに該当することは明らかである。
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(弁護士 井上元)
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