相手方が任意売却の合意に従わない場合

Q 共有者間で共有不動産を任意売却する約束をしたのですが、相手方が売却手続に協力してくれません。このような場合でも共有物分割請求訴訟で分割することができるのでしょうか?

A 任意売却の合意があっても、一定期間、売却ができなければ、「協議が整わない」と解されます。


分割協議が成立している場合

 既に分割の協議ができている場合、共有物分割請求訴訟は訴えの利益を欠き、却下されます。この場合は、共有物分割請求ではなく、協議内容の実行を求めることになります。

東京地判平成16・11・19判例秘書(平成15年(ワ)15476号)

「本件合意については、その内容から、既に本件土地についての分割方法については合意に達しているものであって、本件合意第2条に定める時期の点は、単に分筆登記を行うべき時期に関するものにすぎないというべきであるから、D及びその特定承継人である原告と、被告との間においては、本件合意により、分割の合意が整ったものというべきである。そして、共有物分割請求は、分割協議が成立したことにより、訴えの利益を欠くものと解すべきであるから、原告の共有物分割請求は、訴えの利益を欠くものとして却下するのが相当である。」

任意売却の合意の場合

 任意売却するとの合意があった場合に、協議が成立したと主張されることがあります。

 しかし、任意売却するとの合意があっても、相手方が売却の手続に協力しなければ、売却を強制することはできません。多くの裁判例では、任意売却の合意をしても、一定期間、売却ができなければ、「協議が整わない」と解されています。

東京高判平成6・2・2判タ879号205頁

「本件不動産の共有者であるXとYとは、本件不動産について、これを任意に売却し、売却に係る費用を差し引いた残金を持分割合に従って配分するとの分割方法の合意をしたが、任意売却の期間及び任意売却ができない場合の措置については何らの合意もしなかったところ、右の合意成立後3年半近く経った現在も、なお任意に売却できる見込みがない状態にあるということができるのであって、このような場合には、共有者は、右の合意にもかかわらず、分割について別途の協議がされるなど特段の事情のない限り、分割の協議調わざるものとして、共有物の分割を裁判所に請求し、競売を求めることができるものと解するのが相当である。けだし、本件和解は、共有物分割の方法として本件不動産を売却しその代金をもって分割することとし、そのための手段として任意売却をすることとしたものであるが、これは合理的期間内に本件不動産を任意売却することかできることを前提としてされたものであって、右の期間内に任意売却をすることのできる見込みがなくなった場合には、右の合意はその前提を欠くことになってその効力を失い、特段の事情のない限り、改めて任意売却に代わるべきものとして競売を求めることができるものと解するのが、当事者の合理的な意思に合致するというべきであり、かつ、本件和解後3年半近く経過した現在もなお任意に売却できる見込みがない状態にある以上、合理的期間内に本件不動産を任意売却することのできる見込みがなくなったといえるからである。」

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