現物分割が認められない場合
Q どのような場合に現物分割が認められないのでしょうか? |
A そもそも現物分割ができないとき、または、分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときには現物分割は認められません。
現物分割を希望しても、そもそも現物分割ができないとき、または、物理的に分割が可能であっても分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときには現物分割は認められません(民法258条3項)。
また、一部の共有者が価額賠償により共有物の取得を希望し、これが認められる場合にも現物分割は認められません。
ここでは、前者について説明します。
現物分割が認められない場合の具体例
裁判例をもとに現物分割が認められない場合を整理しました。
現物分割ができないとき
① 建物の存在・利用状況
土地上の大半に建物が建築されている場合、原則として、建物を度外視して土地のみが現物分割されることはありません。このような場合、賠償分割か競売分割されることになります。
② 主として土地の面積や地形
土地を細分化することは物理的には可能ですが、価値が著しく減少する程の狭小土地に分割されることはありません。ただし、狭小か否かは、地域性にも大きく影響されます。また、共有者の数が多くなれば、現物分割後の各土地の面積が狭小になりますので、共有者数も重要な要素となります。
③ 建築規制等
土地は建築基準法上の接道義務を充たしていなければ建物を建築することができません。裁判例では分割後の土地の接道義務などに言及するものもあります。
④ 地域性
不動産の価値につき地域性を考慮する裁判例があります。
⑤ 分割手続
土地を現実に分割するためには、図面の作成だけではなく、その後の具体的な手続を行う必要があり、これができないときには現物分割は認められません。
⑥ 境界不分明の土地
Xが現物分割を求めている事案において、隣地との境界が明確でなく、その確定に長期の日時を要する場合、訴えが却下された事例があります。ただし、隣地との境界が不分明であっても競売することに支障はありませんので、競売による分割は行うことができます。
⑦ 建物・区分所有マンション
建物は、通常、現物分割することはできません。ただし、区分所有建物とすることが可能な場合、区分所有建物として分割されることがあります。区分所有マンションの現物分割は物理的に不可能であり、賠償分割か競売分割となります。
分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき
「分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき」にも現物分割はできません。「現物分割ができないとき」と重なり合う部分もありますが、こちらは、財産的評価に重点が置かれていると考えられます。本件各土地を一括して売却の場合に比してその低下の割合はせいぜい10%強程度に過ぎず、現物分割によって本件各土地の価格が著しく損するとまでは到底認められないとする裁判例もあります(東京地判平成9・1・30判タ968号183頁)。
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(弁護士 井上元)
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