一部の共有状態を残す分割
Q 一部の者の共有を残すこともできるのでしょうか? |
A 共有物分割訴訟では、全員の共有関係が解消されることが原則ですが、共有関係の解消を望まない者については共有として残すことも許されます。
例えば、A、B、Cの3名の共有土地があるとします。AとBの2名であれば、共同で利用したり、あるいは、将来的に任意売却することもできるものの、Cと対立しているため、当面、当該土地をA・Bの2名の共有にしたいということもあろうかと思われます。
民法256条が各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとしたのは、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐって、意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に支障を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、かかる弊害を除去するという趣旨によるものと解され、意見が対立したA・B側とCとの間の共有関係のみを解消すれば足りるのであって、意見の対立のない者の相互間を含めて、一律全面的に共有関係を解消する必要はありません。(最判昭和62・4・22民集41巻3号408頁、最判平成4・1・24集民164号25頁)。
ただし、共有関係の解消を積極的に希望しない一部の共有者以外にも共有関係を存続させることはできません。
共有として残された土地の処理はその共有者間の協議に委ねられます。しかし、共有として残された後に各共有者が売却等処分する可能性もありますので、分割に当たって、なるべく処分可能性を維持する、あるいは高める方法で行うのが合理的と考えられます。
最判昭和62・4・22民集41巻3号408頁
共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。
最判平成4・1・24集民164号25頁
共有者が多数である場合には、分割請求者の持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残す方法によることも許されることは、当審の判例(昭和59年(オ)第805号同62年4月22日大法廷判決・民集41巻3号408頁)の判示するところであり、その趣旨に徴すれば、分割請求をする原告が多数である場合においては、被告の持分の限度で現物を分割し、その余は原告らの共有として残す方法によることも許されると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前示事実関係によれば、本件各土地の現物分割をするについては、本件各土地を一括して分割の対象とし、かつ、被上告人の持分の限度でこれを分割し、その余は上告人らの共有として残す方法によることを妨げる事情はうかがわれず、この方法によるならば、本件各土地を極度に細分化することになるとはいえないから、この理由をもって、現物分割によると著しく本件各土地の価格を損ずることとなるとし、競売による代金分割を命じた原判決には民法258条の解釈適用を誤った違法があって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽の違法があるといわなければならない。
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(弁護士 井上元)
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