相続と共有物分割

Q 相続により共有となった場合の分割の手続を教えてください

A 相続が開始したものの遺産分割未了である遺産共有の場合には遺産分割手続をとる必要があります。ただし、遺言等により物権法上の共有(物権共有)となっている場合や遺産共有と物権共有が併存している場合には共有物分割の手続により分割することができます。


遺産共有

 相続が発生し、複数の相続人が遺産を共有している状態を遺産共有と言います。遺産共有を解消するためには、遺産分割協議、家庭裁判所における遺産分割調停、審判手続により分割されることになります(最判昭和62・9・4集民151号645頁)。

 遺産共有の状態で共有物分割請求訴訟を提起しても、却下されますので注意してください。

遺産分割の必要

 遺産共有の状態のままですと、上記のとおり遺産分割手続により分割されることになりますが、遺産分割により物権共有になった後に分割するには共有物分割の手続によることになります。遺産分割手続においては、他の財産も含め、かつ、特別受益や寄与分の主張とあわせて処理されますが、遺産分割により物権共有となった後に共有物分割請求訴訟により分割される場合、特別受益や寄与分は考慮されません。

 不動産につき、相続人の1人は単独で法定相続分による相続登記を行うことができますが、この登記が行われても遺産共有のままであり、物権共有とはなりません。

 しかし、この相続登記から相当期間が経過するなどした結果、黙示の遺産分割協議が成立した、遺産分割協議を追認したなどとされることもあります。

東京高判平成2521判時135269頁・判タ755201

 相続人の間で、法定相続分の割合で遺産を分割する趣旨の合意が黙示的に成立しており、遺産分割の協議が調っていたものと認めるのが相当である。

遺言による取得

 相続させる旨の遺言もしくは遺贈する旨の遺言があれば、相続開始後、直ちに当該物件を取得しますので、これにより共有となれば、共有物分割の手続により分割されることになります。

遺産共有持分権を譲り受けた第三者による分割手続

 共同相続人の1人から遺産を構成する特定不動産について同人の有する共有持分権を譲り受けた第三者が共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は遺産分割ではなく民法258条に基づく共有物分割請求となります(最判昭和50・11・7民集29巻10号1525頁)。

遺産共有と物権共有の併存

 遺産共有持分と物権共有持分とが併存する共有物について共有物分割訴訟が提起され、遺産共有持分を他の物権共有持分を有する者に取得させ、その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には、遺産共有持分権者に支払われる賠償金は、遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから、賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は、これをその時点で確定的に取得するものではなく、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うとされています(最判平成25・11・29民集67巻8号1736頁)。遺産共有持分権と物権共有持分権が併存する場合、物権共有持分権者のみならず遺産共有持分権者も共有物分割訴訟を提起することができます(同最判)。

改正民法

 令和3年民法改正により、相続不動産についての共有物分割につき次のように改正されました。

原則の明記

 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について民法258条の規定による分割をすることができず、遺産共有関係は、原則として、地方裁判所又は簡易裁判所の共有物分割の手続において解消することができない(家庭裁判所の遺産分割の手続で解消しなければならない)ことが明記されました(民法258条の2第1項)。

一元処理を可能とする仕組み

 その上で、具体的相続分による遺産分割の時的限界(改正民法904条の3)を踏まえ、遺産共有持分とその他の共有持分とが併存する共有物については、相続開始時から10年を経過した場合には、遺産共有持分について遺産の分割の請求があり、かつ、相続人が共有物分割の手続による分割に異議の申出をしたときでない限り、遺産共有持分の解消も含めて、共有物分割の手続で一元的に共有関係を解消することが可能となりました(民法258条の2第2項)

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(弁護士 井上元)

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