共有物分割請求と権利濫用
Q どのような事情があっても共有物分割請求は認められるのでしょうか? |
A 権利濫用とみなされる場合には分割請求が認められないこともあります。
権利濫用
共有は濃密な人間関係を前提にすることが多いため、共有物分割請求においては、共有物分割の請求を行うこと自体が権利濫用であると争われる事例が相当数見受けられます。
共有物分割請求権の行使が権利濫用と判断されるか否かについては、一般論としては、当該共有関係の目的、性質、当該共有者間の身分関係及び権利義務関係等を考察した上、共有物分割権の行使が実現されることによって行使者が受ける利益と行使される者が受ける不利益等の客観的事情のほか、共有物分割を求める者の意図とこれを拒む者の意図等の主観的事情をも考慮して判断するのが相当であるとされています(東京地判平成28・8・22判例秘書平成26(ワ)13914)。
権利濫用とされた事案としては、遺産分割協議によって共有者の1人である妻が本件不動産において余生をおくることを当然の前提として同人の持分割合を法定相続分よりも殊更少なくした事案、被告にとって当該不動産が唯一の生活の本拠であることに対し原告は十分な経済力を有している事案などがあります。
東京高判平成25・7・25判時2220号39頁
X、Y及びAは、Yはその存命中は本件建物に居住し、公的年金、東京都品川区○○所在の区分建物に係る賃料収入等をもって生計を維持し、他方で、Xは、Yとは別居して賃借アパートに居住し、主として生活保護によって生計を維持することを前提として、Bの遺産についての分割の協議をしたものと推認することができる。Yも、X、Y及びAの間では、本件建物でYが余生を送ることが当然の前提(共通認識)になっていたと考えている旨陳述するところである。
そうすると、本件建物の競売を命ずる場合には、上記前提を覆すことになるところ、Bの遺産についての分割の協議が調った平成18年3月当時も現在も、Yは、本件建物に居住し、公的年金、東京都品川区○○所在の区分建物に係る賃料収入等をもって生計を維持しており、他方で、Xは、賃借アパートに居住し、主として生活保護によって生計を維持しているから、平成18年3月当時から現在までの間にX及びYにつき重大な事情の変更があったとは認められない。また、Xは、本件建物の分割を求める理由として外語専門学校に入通学するための資金取得等を挙げるが、Xの生活歴、(略)に認定したYに金銭を要求する際の強迫的言辞その他のYに対する言動からみて、現時点でも、Xに安定した通学、就労等を期待することは困難であるといわざるを得ず、また、Xが、外語専門学校への入通学等について、上記前提を覆してまで実現すべき堅固な意思を有しているとも認められない。~以上を総合すれば、Xの本件建物の分割の請求は、X、Y及びAが本件建物をX及びYの共有取得とする際に前提とした本件建物の使用関係(Yが存命中本件建物を使用すること)を合理的理由なく覆すものであって、権利の濫用に当たるというべきである。
任意売却・競売により取得した第三者による分割請求
共有者からその共有持分を買い受けたり、あるいは競売により取得した者が他の共有者に対して共有物分割請求を行うことも多々見受けられますが、いずれも、この事情のみで権利濫用とされることはありません。
特に、競売落札者による共有物分割請求については、これを権利の濫用としたのでは適切公正な競売手続を阻害することとなりかねないとされています。
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(弁護士 井上元)
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