契約不適合(瑕疵)な土壌汚染とは?

Q 土地を購入したところ、この土地には土壌汚染があるのではないかと指摘されました。土壌汚染とはどのようなことを言うのでしょうか?

A 多くの事案では土壌汚染対策法で指定されている特定有害物質で汚染されていると土壌汚染があるとされていますが、油汚染、石綿(アスベスト)、ダイオキシン、悪臭なども汚染と認められます。


 民法では、引き渡された目的物が種類、品質、又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき、買主は、売主に対し、目的物の修補などの請求をすることができるとされています(562条)。これを、売主の「契約不適合責任」と言います。

 平成29年(2017年)に成立し、令和2年(2020年)4月1日から施行されている改正民法の前は、「瑕疵担保責任」と言われていたものです(改正前民法570条)。

 売買の対象となった土地に土壌汚染があった場合、どのような土壌汚染が「契約不適合」、「瑕疵」とされるのか民法では規定されていません。

 土壌汚染については、環境基本法、土壌汚染対策法、条例、ガイドライン等で規制されており、土壌汚染を理由として、買主が、売主に対し、瑕疵担保責任もしくは契約不適合責任を追及する場合、これらの法令等で規制されている物質が土中に存し、かつ、規制値を超えている場合、土壌汚染があると認定されることになります。

 ちなみに、土壌汚染対策法では、特定有害物質として、第1種特定有害物質(クロロエチレン等の揮発性有機化合物)、第2種特定有害物質(カドミウム等の重金属等)、第3種特定有害物質(農薬等)が指定されています。

 また、油汚染については油汚染対策ガイドライン、石綿(アスベスト)については大気汚染防止法その他、悪臭については悪臭防止法で規制されています。

 これらを基準として「契約不適合」、「瑕疵」の有無が判断されているのです。

 有害物質であるか否かについては、法令の規制に変動がありますので、現在では規制されていても、取引の時点では規制されていなかったということもあります。最判平成22・6・1民集64巻4号953頁は、売買契約時においてふっ素は法令に基づく規制の対象になっておらず、買主もふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識していなかった事案において、当該土地に瑕疵はないと判断しています。

 現実に紛争が生じた際には、当該有害物質についての規制の変遷について十分に調査する必要があります。

最判平成22・6・1民集64巻4号953頁

 土地の買主Xが、売主Yに対し、当該土地の土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから、瑕疵(改正前民法570条)に当たると主張して、瑕疵担保による損害賠償を求めた事案です。

事案の概要

⑴ Xは、平成3315日、Yから、本件土地を買い受けた。本件土地の土壌には、本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが、その当時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象となっていなかったし、取引観念上も、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、Xもそのような認識を有していなかった。

⑵ 平成13328日、環境基本法161項に基づき、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められた平成38月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)の改正により、土壌に含まれるふっ素についての環境基準が新たに告示された。

 平成15215日、土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。同法21項は、「特定有害物質」とは、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定めるところ、ふっ素及びその化合物は、同令121号において、同法21項に規定する特定有害物質と定められ、上記特定有害物質については、同法(平成21年法律第23号による改正前のもの)51項所定の環境省令で定める基準として、土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)18条、別表第2及び第3において、土壌に水を加えた場合に溶出する量に関する基準値(溶出量基準値)及び土壌に含まれる量に関する基準値(含有量基準値)が定められた。そして、土壌汚染対策法の施行に伴い、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例1152項に基づき、汚染土壌処理基準として定められた都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則56条及び別表第12が改正され、同条例212号に規定された有害物質であるふっ素及びその化合物に係る汚染土壌処理基準として上記と同一の溶出量基準値及び含有量基準値が定められた。

⑶ 本件土地につき、上記条例1172項に基づく土壌の汚染状況の調査が行われた結果、平成17112日ころ、その土壌に上記の溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。

最高裁の判断

 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、Xの担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。

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