契約不適合(瑕疵)な地中障害物とは?
Q 土地を購入し、新たに建物を建築しようとして基礎工事を始めたところ、地中から、多量のコンクリートの塊が出てきました。契約不適合(瑕疵)があるとして売主の責任を追及することができるのでしょうか? |
A 多量の場合は契約不適合(瑕疵)と判断されると思われますが、事案に応じて検討する必要があります。
最判平成22・6・1民集64巻4号953頁では「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」とされています。
具体的に、当該地中障害物が存したことが契約不適合(土地の瑕疵)に該当するか否かは、地中に存した地中障害物の種類、量などが重要な要素となりますが、それ以外にも、購入目的、地域性、当事者の認識なども含めて総合的に判断されます。
令和2年(2020年)4月1日の改正民法施行後の案件で、契約不適合が認められた裁判例と認められなかった裁判例を紹介します。
東京地判令和5・3・29判例秘書(令和2(ワ)21596)(肯定)
購入した土地からコンクリート杭が5本発見されたことにつき、契約不適合の有無として、「本件売買契約の目的物は本件土地建物であるが、同契約書特約①(略)によれば、同契約後、原告が本件建物を解体撤去し、本件土地上に新しい建物を建築することは、同契約の前提となっていたと認められる。また、本件土地は、荒川区□□に所在する宅地であるから、今後、原告が本件土地を転売する場合にも、同じく建物を建築することを目的として売買されることが予想される土地といえる。以上を前提に検討するに、仮に本件土地のコンクリート杭が、建物の不等沈下等を防止する効用を有する支持杭であれば、これが地中に埋設されていても、一概に契約内容に適合しないとはいえない。しかしながら、本件土地のコンクリート杭は、土地の一部分にのみ埋設された5本であるから、これだけでは建物の支持杭として意味を持たないことが明らかである。そして、原告は、やむなくコンクリート杭を避けて地盤補強工事を行い、建物を新築しているが(略)、一般的に、このような支持杭ではない地中杭が存在することは、建物建築の障害となり得るものとして、土地の減価要因となるから、本件売買契約の内容に適合しないと認めるのが相当である。したがって、被告は原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。」とされました。
東京地判令和5・11・6判例秘書(令和4(レ)765)(否定)
XがYから買い受けた土地に、排水管パイプが埋設されていたことにつき、
「⑴ 本件土地が宅地として売買されたものであり、本件契約の締結に際して地中埋設物が存在しない旨の売主の認識が示され、本件契約の前にされた建物撤去工事に際し、地中より発見されたガラが撤去され、新たに土が入れられた旨の説明がされたことからすれば、本件契約において、建物撤去工事の際に掘削された部分について、少なくとも本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物が存在しないことが本件土地の品質として合意されていたと認めることができる。もっとも、地中埋設物がない旨の説明は売主であるYの認識を示したにとどまり、建物撤去工事に際してガラを撤去した旨の説明も、あくまで建物撤去工事の際に掘削した範囲にとどまるものであり、本件土地全体について地中埋設物がないことまで確認したことを説明したものではないから、本件土地全体におよそ地中埋設物が存在しないことが本件契約の内容であったということはできない。
⑵ また、本件パイプが本件土地の北側境界付近の本件塀に沿って埋設されていたことからすれば、建物解体工事に際し、本件パイプの埋設箇所が当然に掘削されるべきであったということはできないし、本件パイプが本件契約前に解体された建物に接続していたことを認めるべき証拠もないことからすれば、本件パイプが建物解体工事の際に当然に発見されて撤去されるべきであったともいえない。そして、本件パイプの埋設が判明した後も自宅建築工事は進行して完成に至っており、本件パイプの埋設が自宅建築に大きな支障となったものとは認められない。
⑶ 以上に照らせば、本件パイプが、本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物であったと認めることはできず、本件土地の品質に関する契約不適合があったとはいえない。
⑷ これに対し、Xは、本件土地のチラシに『整形地・更地』との記載がされていることから、本件土地の品質として、本件パイプが埋設されていないことが合意されていた旨主張する。しかしながら、『更地』とは土地上に建築物がない状態を、『整形地』とはその敷地が整形された土地を指すものと一般に考えられるのであって、それらの記載をもって、本件契約において、本件土地の品質に関し、前記認定の合意内容を超える合意がされていたということはできない。
また、Xは、本件パイプの埋設が自宅建物の安全性に影響を与えている旨主張しているが、その影響を認めるに足りる証拠はない。」
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