契約不適合責任の免除・期間限定特約

Q 契約不適合責任・瑕疵担保責任を免除したり、期間を限定する特約は有効なのでしょうか?

A 土壌汚染や土地の地中障害物については、売主も知らないことが多く、また、売買契約後にこれらの存在が判明すると損害賠償額も高額になります。そこで、売買契約書において、売主の担保責任を免除したり、期間を制限したりする特約が定められることも多いようです。このような特約も当然に無効ではありませんが、特約の成立の有無、売主悪意の場合の無効、錯誤、特約の解釈等をめぐって特約の効力や適用の有無について争われています。


1 特約の成立の有無

 契約書に瑕疵担保免除特約の規定があっても、当該条項は契約内容になっていないと争われる場合があります。

特約の成立を肯定した裁判例

東京地判平成16526判例秘書H15()1808

 本件契約書を一読すれば、本件特約の存在は明らかであって、被告において、本件特約の存在を原告に秘匿するために、例えば、本件契約書を読む機会を与えなかったなどという事情でもあれば格別、そうとは窺われない本件においては、本件契約書に明記されている契約条項については、本件特約に限らず、これに従う意思で当該契約書を作成しているものと認めるほかはなく、原告において、本件契約書の内容をよく読まなかったとしても、そのことから本件契約書に記載された契約条項に従う意思それ自体が否定されるべきものではなく、その契約条項の一つである本件特約の不成立をいう原告の主張は失当といわざるを得ない。

特約の成立を否定した裁判例

札幌地判平成17422判タ1203189

 本件売買契約における宅地建物取引業法第35条に基づく重要事項説明書においては、本件売買契約においては、売主である被告Yは、原告に対し、瑕疵担保責任を負わない旨が記載されていたとの事実を認めることができる。しかしながら、他方で、前記1で認定した事実によれば、これに反する次のとおりの事実もまた認めることがてきる。

ア 被告Y及び原告は、本件土地がガソリンスタンドとして使用されていたことを認識した上で、あえて地中埋設物の存在を前提に、本件売買契約の代金を減額するなどの話合いをしたことはない。むしろ、被告Yは、原告の問い合わせに対し、本件土地の地中埋設物が撤去済みであると回答している。

イ 被告Y及び原告は、本件売買契約の締結の際、本件土地西側の境界線に、本件埋設物④の一部が露出していることを認識していた。被告A主張の瑕疵担保責任免除特約は、この点を指しているとみることもできる。

したがって、被告Yの本件売買契約における瑕疵担保責任免除特約の主張を採用することはできない。

2 売主悪意の場合の特約の無効

 瑕疵担保責任免除特約は、売主が瑕疵の存在を知っていた場合には免除の効力は否定されます(民法572条)。

3 特約の錯誤無効

 瑕疵担保責任免除特約が錯誤により無効であると争われることもあります。

4 瑕疵担保に関する特約の解釈

 売主の責任について特約の解釈により判断される事案もあります。

東京地判平成9529判夕961201

 「地中障害が発生した場合は、被告の責任と負担で解決する。但し、後記建物基礎の部分については、原告の責任と負担で解決する」との条項につき、「従前建物の基礎については、布基礎程度のものは原告の費用で撤去し、予想外の大規模な基礎があった場合には被告が撤去費用を負担する旨の合意であったといえる。布基礎程度というのは、正確にはその内容が不明確であるが、本件で実際に発見された地下室を伴う基礎については、それを超えるものであったことは明らかであるといえる。したがって、その撤去費用については、被告が負担すべきである。」とされました。

5 特則

 特別法で特則が定められています。

宅地建物取引業法による特則

 宅地建物取引業法40条では宅地建物取引業者が売主である場合の特則が定められています。

宅地建物取引業法40

  1. 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主不利となる特約をしてはならない。
  2. 前項の規定に反する特約は、無効とする。

消費者契約法による特則

 消費者契約法では、消費者に不利となる条項が無効になる場合が規定されています(消費者契約法8条)。

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