返還された貸地・貸家敷地の土壌汚染
Q 工場用地として貸していた土地が返還されたところ土壌が汚染されていました。この場合、借主に対し土壌汚染を除去するよう求めることができるのでしょうか?貸していたのが工場の建物で、敷地が汚染されていた場合はどうなのでしょうか? |
A 借主には原状回復義務がありますので、いずれの場合でも借主は土壌汚染を除去すべき義務があり、借主がこれを怠った場合、貸主は借主に対し損害賠償請求をすることができます。
賃借人の原状回復義務
賃貸借契約が終了したときは、賃借人は、賃貸物を返還する義務を負いますが、この義務は、単に賃貸物を返還するだけでは足りず、解除の場合と同様、契約前のもとの状態に回復して返還する義務を負うと解されています。例えば、最判平成17・3・10判時1895号60頁・判タ1180号187頁は、土地の賃借人が同土地を無断で転貸し、転借人が同土地に産業廃棄物を不法に投棄したという事案において、賃借人は、賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務として、上記産業廃棄物を撤去すべき義務を負うとしています。
平成29年の改正民法では、賃貸借の終了時における賃借人の原状回復義務が明記されました(621条本文)。
土地賃貸借の事例
東京地判平成29・8・30判例秘書H25(ワ)33801
事業用借地権契約が期間満了により終了し、借主が更地にした上、土地引渡しの提供をしたところ、土壌汚染(鉛、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン)があったため、貸主の借主に対する有害物質の撤去等工事費用等の請求が認められました。
建物賃貸借の事例
東京地判平成19・10・25判時2007号64頁・判タ1274号185頁
賃借人は、建物の賃貸借においては、敷地である土地についても、これを原状に復した上で返還する義務を負っているのであり、被告は、本件土地について汚染物質を取り除き原状に復した上で原告に返還しなければならず、土壌汚染を除去しないまま本件建物及び本件土地を返還した被告は、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
損害賠償請求権および期間制限
借主が原状回復義務を怠った場合、貸主は借主に対し損害賠償の請求をすることができます。
この損害賠償請求は、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでに行う必要があります(民法622条による600条の準用)。
民法
第621条(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
第622条(使用貸借の規定の準用)
第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。
第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
- 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
- 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
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