現物分割の方法
Q 共有物分割請求訴訟ではどのようにして現物分割が行われるのでしょうか? |
A 裁判所は、現物分割をするに当たって、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮して分割します。
総論
現物分割とは?
現物分割とは、共有物を分割して共有者各人がそれぞれ単独所有者となる方法です。
裁判所は、現物分割をするに当たって、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮して分割します。
当事者の意思の尊重
分割方法については当事者の意思が尊重され、分割方法について共有者間において合意がある場合、特段の事由がない限り、その合意に基づいて分割されます。
有効活用
土地を現物分割するためには、土地の有効利用が図られ、且つ、当事者全員にとって公平な分割がなされる必要があります。
現物分割の形態
基本形
AとBが共有する一筆の土地をa土地とb土地の2筆の土地に分筆して、Aがa土地を、Bがb土地を取得する方法が典型例です。この場合、分割後のa土地とb土地が等価(面積ではなく価値)となる必要があります。
部分的価格賠償
現物分割をするに当たっては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきですから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも許されます(最判昭和62・4・22民集41巻3号408頁)。これを「部分的価格賠償」と言い、現物分割の一態様とされています。
現物分割の考慮要素
土地の面積・形状等
土地を現物分割するためには、当該土地が相応の面積を有し、且つ、分割可能な形状であることが必要です。
利用状況の考慮
分割に際しては当該共有物の利用状況が考慮されます。一方の生活環境が重視された事例もあります。
建物が建築されている事例
共有土地上に建物が存する場合、建物の位置を基準に土地が分割されることが望ましいと言えますが、建物が残存することが現物分割を必ずしも妨げるとは言えません。
希望が抵触する事例
共有者の希望が同じであったり、抵触する場合には各種事情を総合考慮して決されることになります。
当事者が隣地を所有している事例
当事者が隣地を所有していることが考慮される要素となります。ただし、当該隣地を所有している当事者が同意していない場合には当然に考慮されるとは言えません。
その他
上記以外にも、紛争の経緯、近隣地区計画による規制、建ぺい率など、いろいろな要素が考慮されます。
地積測量図作成の必要性
一筆の土地を現物分割する場合には分筆が必要となります。形式的形成訴訟である共有物分割請求訴訟では、裁判所は、当事者の希望に拘束されず、分割方法を決めることができますが、裁判所が独自に土地を測量して分筆に必要な図面を作成することはできません。訴訟では、現物分割を希望する当事者が、自らその希望する分割案に基づく図面を作成、提出し、裁判所がその当否を判断するという形で判断されます。
したがって、土地を分筆して現物分割を求める場合、地家屋調査士に依頼して分筆可能な測量図面を作成し、裁判所に提出し、判決書もしくは和解調書にその図面を添付してもらう必要があります。
また、分筆登記のためには、原則として、隣地との境界が確定している必要がありますので、土地家屋調査士に相談し、分筆か可能であることを事前に確認する必要があります。
現物分割のために必要な作業である土地の測量等ができない場合には現物分割は認められません。
分筆
共有土地の分筆は、「共有物に変更を加えること」(民法251条)に該当しますから、共有者全員が申請人となりますが、共有物分割の裁判または訴訟上の和解によって共有物が分割された場合において、共有登記名義人の一部の者が分筆登記の申請をしないときは、他の登記名義人がその者に代位して分筆登記の申請をすることができます。このように共有者は単独で分筆の登記申請をできますので、分筆を求める請求は認められません。
所有権移転登記手続
分筆登記によりAとBの共有名義のa土地とb土地の2筆の土地でき、Aが取得するa土地についてはAがBから所有権移転登記をしてもらい、Bが取得するb土地についてはBがAから所有権移転登記をしてもらうことになります(最判昭和42・8・25民集21巻7号1729頁)。
最判昭和42・8・25民集21巻7号1729頁
共有物の分割は、共有者相互間において、共有物の各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行なわれることであつて(民法249条、261条参照)、所論のごとく、各共有者がその取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではない。したがつて、一箇の不動産が数人の共有に属し分割の結果各人がその一部ずつについて単独所有者となる場合には、まず分筆の登記手続をしたうえで、権利の一部移転の登記手続をなすべきである。
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(弁護士 井上元)
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