認知症の債務者に対する強制執行

債権者は、債務者に対して持っている債権が金銭債権の場合、債務者に対して判決等を得て、債務者の財産を差し押さえるなどの強制執行を行うことができます。しかし、債務者の中には、認知症であるなど様々なケースがあり、注意しなければいけないことがあります。

 (1)訴訟能力の必要

    債務者に訴訟能力がないのを看過してなされた強制執行は無効となります。民事執行法20条で、民訴法の規定が準用されるからです。債務者の積極的な関与なしに行われる執行処分であっても、その執行手続を常に監視し、当該処分の適否を争うべき場合かどうかを判断できる態勢にある必要があるためです。したがって、認知症の債務者に対し、そのまま強制執行しても不適当で、何らかの対処が必要になります。

  (2)方法1

    成年後見の申し立てを行う方法があります。選任された成年後見人が代理権を行うことができない場合は、民事執行法20条、民事訴訟法35条により、特別代理人選任の申し立てを行います。

  *成年後見の申立のやり方

①老人福祉法2条で65歳以上の人に対して市町村長による申立。

しかし、この方法は、「福祉を図るために特に必要があると認めるとき」と限定されています。家族がいると申立が認められるか微妙です(『Q&A 成年後見制度の解説p76』)。

       

②親族に申立を促す。

しかし、家族に拒否されると手続きは進みません。

  

(3)方法2

 成年後見人を選任しないまま、民事執行法20条、民事訴訟法35条により特別代理人の選任を申し立てることが考えられます。 問題点としては、民訴法35条の条文上「未成年者又は成年被後見人に対し」とあることから、認知症かつ成年被後見人がいない場合は、条文にそのまま当てはまらないことです。

  しかし、この点については、判例では問題になった事案はなく、学説でも「ある者が事理弁識能力を欠く常況にありながら後見開始の審判がなされていない場合・・・・・・本条が適用される」(『伊藤眞 民事訴訟法第3版3訂版 p111』)とあります。また、特別代理人の選任できるかは、最終的には受訴裁判所の裁判長が判断すること(民訴法35条1項)ですので、実務では必ずしも成年後見が申立られなくても大丈夫なようです。 

 (弁護士中村友彦)