契約不適合責任の除斥期間・消滅時効

Q 購入した土地に土壌汚染や地中障害物があった場合、買主が売主の契約不適合責任を追及するためには、いつまでに何をする必要があるのですか?

A 買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知をする必要があります。


 改正前民法における瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を保存するには、「具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。」とされていました(最判平成41020民集4671129頁)。

 しかし、買主にここまでの負担を課すことは過重であるとの指摘から、改正民法では、買主が担保責任に関する権利を保存するための要件を改め、買主は、目的物が契約の内容に適合しないことを知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ、履行の追完請求等をすることはできないとされました(改正民法566条本文)。この「通知」は、単に契約との不適合がある旨を抽象的に伝えるのみでは足らず、細目にわたるまでの必要はないものの、不適合の内容を把握することが可能な程度に、不適合の種類・範囲を伝えることが想定されています(筒井健夫・村松秀樹著「一問一答民法(債権関係)改正」商事法務285頁)。

 また、1年間の期間制限は履行済みと考えている売主の期待を保護するものですから、売主が引渡しの時に引き渡した目的物が契約の内容に適合しないことを知り、又は重大な過失によりよって知らなかったときは、そのような売主を保護する理由はなく、このような場合には1年間の期間制限は適用されません(民法566条ただし書)。

 このようにして保存された損害賠償請求権等の消滅時効は、民事、商事にかかわらず5年となります(民法166条1項1号)。

最判平成41020民集4671129

 (買主の売主に対する)損害賠償請求権は、民法570条、5663項により、買主が瑕疵又は数量不足を発見した時から1年の経過により消滅すると解すべき、~この1年の期間制限は、除斥期間を規定したものと解すべきであり、また、右各法条の文言に照らすと、この損害賠償請求権を保存するには、後記のように、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はないと解するのが相当である。

 1年の期間経過をもって、直ちに損害賠償請求権が消滅したものということはできないが、右損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。

改正民法

566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

「Q&A土壌汚染・地中障害物の実務と法理」出版のご案内

 弁護士井上元がAmazonで「Q&A土壌汚染・地中障害物の実務と法理」を出版しました。この本は、土壌汚染及び地中障害物(埋設物)についての多数の裁判例を整理、分析して体系化したものです。豊富な実例を紹介しQ&Aにより分かりやすく解説しています。※法律専門家の方を対象としています。

 ご希望の方は、Amazonのサイト「Q&A土壌汚染・地中障害物の実務と法理」のページからお買い求めください。

(弁護士 井上元)

土壌汚染・地中障害物に関するご相談は土壌汚染・地中障害物のトラブルのページをご覧ください。