競売分割とは?
Q 競売分割とはどのようなものなのですか? |
A 競売分割とは、現物分割もしくは全面的価格賠償による分割の方法により共有物を分割することができないとき、裁判所が競売を命じ、競売手続による売得金が共有者に分配されるものです。
競売による分割
裁判所は、現物分割もしくは賠償分割(全面的価格賠償による分割)ができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるとき、競売を命じます(民法258条3項)。
判決主文
競売を命じる判決主文は、通常、「別紙物件目録記載の各不動産について競売を命じ、その売得金から競売手続費用を控除した金額をXに2分の1、Yに2分の1の割合で分割する。」となります。共有物分割判決は形成判決ですから仮執行宣言は付されません。
競売に付す和解の可否
共有物分割請求訴訟で、当事者が競売により分割することに同意した場合、その旨の和解をすることができるか否か、すなわち、競売に付す旨の和解調書により、当事者が民事執行法に基づき競売の申立てを行うことができるのかという問題があります。
境界確定訴訟とは異なり、共有物分割は協議により行うことができますので、和解により現物分割もしくは賠償分割により分割する旨の和解をすることはできます。
しかし、競売については、国家機関たる裁判所が一定の要件の下で法定の売却条件で実施する手続ですから、当事者が自由に利用できるわけではないとの見解もあります。
この問題については、東京高判昭和63・7・27判時1284号68頁は和解調書により競売申立てを行うことができるとしています(大阪高決平成2・8・17判時1364号42頁・判タ759号261頁も同旨)。
任意売却との違い
競売で売却すると、任意売却による場合よりも売却価格が低くなることが多いと思われます。したがって、任意売却をすることの和解が望ましいとは言えますが、任意売却するためには、不動産仲介業者との媒介契約締結、売出し価格の決定、売却価格の決定、売買契約締結、決済等の様々な場面で当事者の協力が必要です。これが望めない事案では競売にするしかありません。
競売手続
競売申立て
裁判所が競売を命じても、当然に競売手続が開始するわけではなく、判決を得た当事者が、別途、執行裁判所に競売の申立てを行い、執行裁判所は民事執行法に基づく所定の手続に従って当該共有物を競売に付し、売得金を共有者に対し持分に応じて分配することになります。すなわち、競売分割を命じる判決は、当事者に競売に付する権限を与えることになるわけです。
管轄は不動産の所在地を管轄する地方裁判所であり、原告、被告のいずれも競売申立てを行うことができます。
競売申立については民事執行予納金を納める必要があります。競売分割を求める場合にはこの点に留意してください。令和7年7月現在、大阪地方裁判所では、民事執行予納金が原則90万円、その他に印紙代、差押登記のための登録免許税が必要です。
尚、当事者が負担した手続費用は、配当段階において優先的に償還を受けることができます。
申立後の手続
競売申立後、競売開始決定、差押登記、執行官による現況調査、不動産鑑定士による評価、売却基準価額の決定などの手続を経て、競売に付され、原則、最高価買受申出人に対し売却されます。そして、売却代金から手続費用や優先配当額を控除した残金が、共有者の持分に従って分配されます。
競売についての留意点
担保権の処理~削除主義
強制競売及び担保不動産競売において、不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は売却により消滅します(民事執行法59条、189条)。
共有物分割による形式的競売においても、上記規定が適用されて抵当権等は消滅するとする見解(削除説)と適用されず抵当権等は競売による取得者が引き受けるとする見解(引受説)の争いがありました。
この点、最判平成24・2・7集民240号1頁が、共有物分割の競売につき削除説を前提に無剰余措置(法63条準用)を認めたため、現在の実務では削除説により運用されています。
無剰余競売はできない
強制競売及び担保不動産競売において、売却基準額が定まって買受可能価額が決まると(60条1項、3項)、手続費用及び優先債権を考慮して売却代金から差押債権者が一部でも満足を受けられるだけの剰余が出る可能性が無いと判断されると、差押債権者が所要の対応をしない限り、競売手続は取り消されます(民事執行法63条、189条)。
この規定は、形式的競売にも準用されますので(上記最判平成24・2・7)、買受可能価額が優先債権を上回らないと競売は取り消されてしまいます。
共有者の競売手続への参加
強制競売や担保不動産競売において、債務者は競売に参加して買受けの申出をすることができません(民事執行法68条、188条)。しかし、競売による分割のような形式的競売について、上記条項は適用されないと解されています。
すなわち、競売による分割により競売になったとしても、共有者は競売手続で入札し、落札により物件を取得することができるのです。
ただし、競売手続には第三者も入札する可能性がありますので、最高価で入札しなければなりません。
使用借権と競売
東京地裁平成20年6月25日判決は、対象建物について使用借権が存在しているとしても、それ自体競売による代金分割を妨げる事由とはならないとしています。
東京地判平成20・6・25判例秘書(平成19年(ワ)29953号)
被告らは、本件建物の1階部分について使用借権を有する旨主張しているが、仮に使用借権が存在しているとしても、それ自体競売による代金分割を妨げる事由とはならない(なお、その存否等については競売を実施し、売却条件を定める執行裁判所がその権限において判断すべきものである。)。
共有に関する債権の弁済
共有に関する債権につき、「共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。」(民法259条1項)、「債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。」(同条2項)と規定されています。
この規定により、競売における売得金からの清算を命じた裁判例もありますので、競売の際にはご留意ください。
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(弁護士 井上元)
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