公証役場の使い方~公正証書だけじゃない!

 「公正証書を作った方がよいのでしょうか?」と聞かれることがよくあります。「公正証書さえ作れば全てうまくいく」というイメージをお持ちのようです。

 公正証書は、公証人に作ってもらうものですが、他にも重要な役割を果たしています。

公証役場、公証人とはどのような役割を果たしているのか、正確にご存じの方は少ないと思いますので、整理して説明しましょう。

公証役場・公証人とは?

公証役場

 公証役場とは、公証人が執務を行う事務所のことであり、公証人役場とも言います。公証役場は全国で約300箇所あり、公証人は約500人います。

 大阪には、梅田、平野町、本町、江戸堀、難波、上六、枚方、堺合同、岸和田、東大阪、高槻の11箇所の公証役場があります。

公証人

 公証人法の規定により、判事、検事、法務事務官などを長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣により任免され、国の公務をつかさどる者です。

 公証人は、弁護士のように特定の者の代理人として活動するものではなく、中立の立場で公正に職務を行います。

 公証人は、法務省の地方支分部局である法務局又は地方法務局に所属し、管轄区域内に公証役場を設置して事務を行います。公証人は出張してくれますので、例えば、病院で公正証書遺言を作成してもらうこともできます。ただし、管轄の法務局・地方法務局の地域外で執務を行うことはできません。一方、他の地域に住所を有する者であっても、公証役場に出向く場合であれば、公証人は受け付けてくれます。

公証事務

 公証人が提供する法律サービスには、次のものがあります。

公正証書の作成

⑴ 概説

 公正証書の長所は、①私文書に比べて信用性が高いこと、②金銭債権について執行力があること、の2点です。

 特に、②の執行力の点が重要です。金銭債権について執行認諾文言を入れておけば、債務者が支払わない場合には公正証書に基づいて強制執行(不動産競売、預金差押え等)を行うことができるという強力な効力が付与されていますので、公正証書を作成しておけば裁判をする必要がなくなります。

⑵ 公正証書の種類

ア 契約に関する公正証書

 土地や建物の売買、賃貸借、金銭消費貸借などの契約に関する公正証書が一般的です。

 これらは必ずしも公正証書により作成する必要はありませんが、任意後見契約の締結は公正証書による必要があります(任意後見契約に関する法律3条)。

イ 単独行為に関する公正証書

 公正証書遺言が代表的なものです。自筆証書では真実に作成されたものか否かにつき争いが起こることも多いのですが、公正証書で作成すれば、このような争いを相当程度防ぐことができます。

ウ 事実実験公正証書

 公証人は、嘱託人の依頼により、特定の物、場所、装置、現象等を目撃・見分し、あるいは関係者の供述を聴取し、その経緯及び内容・結果を公正証書に記載することができます(公証人法35条)。これを事実実験公正証書といいます。

 将来の争いを防ぐ目的で現状をあるがままに確定しておくためのものですから、一種の証拠保全手段とされています。

 あまりなじみがありませんが、次のような使い方があります。

① 貸金庫の開扉

 貸金庫の借主が死亡し、一部の相続人の立会いだけで貸金庫を開扉する場合、公証人に立ち会ってもらい、事実実験公正証書を作成しておけば、中に何が入っていたかについての将来の紛争が防止できます。

② 知的財産権

 利用例として、日本公証人連合会サイトでは「特許権は取得せず発明を秘密(門外不出、一子相伝など)にしておき、もし、他人が後日同じ発明をして特許を取得した場合には、既に同じ発明を実際に事業に使用していたことを証明して、引き続き使用する権利(先使用権)を認めさせるという方法が有効な場合があります。その場合に備えて、その発明の内容や実施実績を公正証書にしておくことが行われます。」と説明されています。

③ 尊厳死宣言公正証書

 延命治療を行わず尊厳死を希望する場合に作成するものです。

確定日付の付与

 私署証書にこの確定日付印を押してもらいますと、その私署証書が確定日付印の日付の日に存在したとの事実の証明になります。

 確定日付印をもらうだけであり、費用も700円と低額ですから、簡単に利用することができます。

認証

⑴ 定款の認証

 株式会社などを設立するには、定款を作成し、公証人の認証を受けなければなりません。

⑵ 私署証書の認証

ア 署名又は記名押印の認証

 日本人が日本国内で使うことは余りないかもしれませんが、印鑑登録証明書の制度を持たない外国で生活し、又は企業活動をする場合に、身元保証書や契約書などに公的な信用を付与する制度として重要な役割を果たしているようです。

 日本公証人連合会サイトによると「実務上、公証人の行う私署証書の認証は、そのほとんどが、外国文認証で、外国の官公庁等に提出する文書に対するものなのです。」とされています。

イ 宣誓認証

 私署証書の作成名義人本人が、公証人の面前で証書の記載が真実であることを宣誓し、公証人が認証するものです(公証人法58条の2)。証書に記載された内容の真実性が担保されるとされています。

 日本公証人連合会サイトでは次のような利用例が紹介されています。

1.重要な目撃証言等で、証言予定者の記憶の鮮明なうちに証拠を残しておく必要がある場合

2.供述者が高齢又は重病のため、法廷の証言前に死亡する可能性が高い場合

3.現在は供述者の協力が得られるが、将来、協力を得ることが困難となることが予想される場合

4.相手方の働きかけ等により、供述者が後に供述内容を覆すおそれがある場合などに宣誓供述書を作成しておくことは、証拠の保全として大変有用です。

5.推定相続人の廃除の遺言をした場合に、遺言者が廃除の具体的な理由を宣誓供述書に残しておくこと

6.契約書作成の際に、周辺の事情を知る関係者の協力を求めて宣誓供述書を作成しておき、当該契約を巡るトラブルに備えること

参考サイト

日本公証人連合会

法務省≫公証関係

(弁護士 井上元)