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会社設立時の株主は誰?

会社設立の際、株式引受人として出資した者が株主となりますが、実際に資金を拠出する者が別にいる場合、真の株主となるのは、名義人(名義貸与者)であるのか、名義借用者であるのかについて争いが生じることが多々あります。

この点、最高裁昭和42年11月17日判決・民集21巻9号2448頁は「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である。」と判断し、名義借用者が株主になるとしました(最高裁昭和43年4月12日判決・判例時報520号51頁、最高裁昭和50年11月14日判決・金融法務事情781号27頁も同旨)。

しかし、実質上の株主の認定に当たっては、株式取得資金を誰が拠出したのかだけではなく、名義貸与者と名義借用者との関係、その間の合意の内容、株式取得の目的、取得後の利益配当金や新株等の帰属状況、名義貸与者および名義借用者と会社との関係、名義借りの理由の合理性、株主総会における議決権の行使状況などの事情が総合的に判断されており、東京地裁昭和57年3月30日判決・判例タイムズ471号220頁は会社設立時の発行株式の帰属につき名義者の株式であるとしています。

なお、平成2年の商法改正により、発起人の員数の下限が7人から1人にされてからは、人数合わせのための名義借りは不要となったため、名義借用者が真の株主であると認定されるためには相応の根拠が必要と思われます。

また、特例有限会社においては、定款に署名または記名押印を要することから、署名または記名押印した者が原始社員となると解すべきとの議論もありますが、裁判例では、もう少し緩やかに解されているようです。

裁判例

福岡高裁宮崎支部昭和60年10月31日判決・判例タイムズ591号73頁

有限会社における社員は、社団設立行為として入社契約(合同行為)たる性質を有する会社設立の意思表示をなす者であるが、それは要式行為として、原始定款に社員として署名(または記名押印-有限会社法87条)することを要し、その署名者のみが社員となるのであって、たとえ事実上会社の設立に参画し、出資金を拠出した者といえどもこれに署名しない者は法律上有限会社の社員ということはできず(大判昭和3・8・31民集7巻714頁など参照)、定款の確定によって同時に社員及びその出資義務も確定するものと解すべきであるとされました。

高松高裁平成8年5月30日判決・判例タイムズ939号230頁

有限会社の原始社員6名の出資金全額をその内の1名が負担した場合において出資金の贈与があったと認定されました。

大阪地裁平成9年4月30日判決・判例時報1608号144頁

原告らは、それぞれ、本件会社の400口の出資を引き受けるとともに、同払込みは、Aが原告らのために原告らに代わってしたものと認めるのが相当であり、原告らは本件会社の社員であると認められるとされました。本件会社が設立された昭和49年当時、有限会社の設立に必要な原始社員は2名、資本の総額は10万円であった事例です。

札幌地裁平成9年11月6日判決・判例タイムズ1011号240頁

家業(印判制作販売業)を法人化して株式会社が設立された際、先代が株式払込金を支出した場合において、長男・長女を実質的株主として株式を取得させるため、その株式払込義務を代わって履行したものであるとして、長男・長女の株主権が認められました。

東京高裁平成16年9月29日判決・判例タイムズ1176号268頁

Aが有限会社の設立にあたって第三者に名義を借りる前提で出資金を全額拠出し、B及びCは、出資金を拠出せず、社員として自己の名義を貸すことを承諾したにすぎないという事実経過に照らし、Aが有限会社の原始社員であるとされました。

東京地裁平成27年2月18日判決・判例時報2267号114頁

特例有限会社の増資に係る出資の履行につき出捐を行った者が社員(株主)と認められ、真の1人株主でない者によってなされた取締役解任決議の不存在確認の訴えおよび取締役の未払い報酬の支払いを求める訴えが認められました。

水戸地裁土浦支部平成29年7月19日判決・判例タイムズ1449号234頁

株式会社Aの発起人Bが払込責任を負っていた株式の払込金額を株式会社CがBに代わって立替払をしたとして処理された当該株式に係る株主は、BがB名義で当該株式を取得したこと、Aは、Bを株主として扱っていたが、その後、これを転換し、Bの株主の地位を否定するに至ったことが認められる事実関係のもとにおいては、Cではなく、Bであるとされ、Bに対して招集通知をせずになされた株主総会決議は不存在であるとされ、かつ、不法行為に基づく損害賠償が認められました。

大阪高裁平成29年12月21日判決・金融商事判例1549号42頁

他人の承諾のもとにその名義を用いて特例有限会社に出資払込をした場合には、名義貸与人ではなく実質上の出資払込人が出資払込人としての権利を得、義務を負い社員となるとされました。