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会計帳簿の閲覧・謄写請求

会社法では、出資者である株主に対する情報提供を義務づけていますが、これだけでは株主の権利保護に十分でなく、少数株主に会社の会計帳簿を閲覧・謄写する権利を認めています。

すなわち、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主または発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写の請求をすることができるのです(会社法433条1項)。

株主は、取締役に対する違法行為差止請求(会社法360条)、取締役の責任追及の代表訴訟(会社法847条)、取締役の解任請求(会社法854条1項)などによって、直接的に取締役の業務執行を監督し是正することができますが、これらの権利の有効・適切な行使のためには、株主が会社の業務や財産の状況について正確に知っていることが必要だからです。

もっとも、会計帳簿等は会社の営業秘密に直接関わることから、濫用的行使の危険性もあり、一定の持株比率や閲覧謄写請求理由の明示が要求されるとともに、拒絶事由が認められています(会社法433条2項)。

また、株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て請求することができます(会社法433条3項、868条2項)。

「会計帳簿又はこれに関する資料」とは?

「会計帳簿」とは、会社計算規則59条3項にいう「会計帳簿」、すなわち計算書類およびその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(仕訳帳、総勘定元帳および各種の補助簿[現金出納帳、手形小切手元帳等]等)をいい、「これに関する資料」とは、その会計帳簿作成の材料となった資料(伝票、受取証、契約書、信書等)がこれに当たります。損益計算書および申告調整に必要な総勘定元帳を材料に作成される法人税確定申告書控・案などを含む会社の会計に関する一切の帳簿・資料が会計帳簿の閲覧権の対象に含まれると解すべきとの見解もあります(江頭憲治郎「株式会社法〔第7版〕」708頁)。

閲覧謄写請求の理由

会社法433条1項では「当該請求の理由を明らかにしてしなければならない」とされており、会社がその理由を見て関連性のある会計帳簿等を特定でき、拒絶事由の存否を判断し得る程度に具体的な理由を記載する必要があります。

裁判例

最高裁平成2年11月8日判決・判例タイムズ748号121頁

「此度貴社が予定されている新株の発行その他会社財産が適正妥当に運用されているかどうかにつき、商法293条の6の規定に基づき、貴社の会計帳簿及び書類の閲覧謄写をいたしたい」旨の記載では具体性を欠くとされました。

東京高裁平成28年3月28日判決・金融商事判例1491号16頁

「平成16年度の短期貸付金は前年度より減少しているものの、これと未収入金、立替金、仮払金及び貸倒引当金の合計額は前年度とほとんど変わっておらず、帳簿の不正操作が疑われるから、株主として、会計帳簿等を確認して、不正を明らかにするとともに、帳簿を操作した役員に対し責任追及を行う必要がある」等の理由が具体的であるとされました。

拒絶事由

次の場合、会社は請求を拒むことができます(会社法433条2項で1号~5号)。

  1. 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
  2. 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
  3. 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
  4. 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
  5. 請求者が、過去2年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

裁判例

最高裁平成16年7月1日決定・民集58巻5号1214頁

株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社において、その有する株式を他に譲渡しようとする株主が株式の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧謄写請求は、特段の事情が存しない限り、商法293条ノ7第1号にいう「株主ガ株主ノ権利ノ確保若ハ行使ニ関シ調査ヲ為ス為ニ非ズシテ請求ヲ為シタルトキ」に当たらないとされました。

東京地裁平成19年9月20日決定・判例タイムズ1253号99頁

会社法433条2項3号所定の「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業」を営む場合とは、単に請求者の事業と相手方会社の事業とが競争関係にある場合に限るものではなく、請求者(完全子会社)がその親会社と一体的に事業を営んでいると評価することができるような場合には、当該事業が相手方会社の業務と競争関係にあるときも含むものと解するのが相当であり、「競争関係」とは、現に競争関係にある場合のほか、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い場合をも含むと解するのが相当である。

最高裁平成21年1月15日決定・民集63巻1号1頁

子会社の会計帳簿等の閲覧謄写許可申請をした親会社の株主につき、不許可事由があるというためには、当該株主が子会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、当該株主に会計帳簿等の閲覧謄写によって知り得る情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図があることを要しないとされました。

閲覧・謄写請求の仮処分

会社が閲覧・謄写請求を拒む場合、株主・親会社社員は、閲覧・謄写を求める仮処分を申請することができます(保全の必要性を否定した事例として、東京地裁平成19年6月15日決定・金融商事判例1270号40頁、同抗告審・東京高裁平成19年6月27日決定・金融商事判例1270号52頁)。