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会社解散の訴え

①社員間の不和等を原因として業務継続が困難な状態に陥っている場合、②多数派株主の不公正かつ利己的な業務執行により少数株主がいわれのない不利益を被っている場合、多数を得られない少数株主はどうすることもできないのでしょうか?

このような場合、要件は厳格で、余り利用されることのない制度ですが、会社解散の訴え(会社法833条)があります。

制度の趣旨

会社解散の訴え(会社法833条)は、会社が自治的能力を喪失し、解散させることに「やむを得ない事由」がある場合に、社員の利益保護の見地から認められる制度であり、主に株式に譲渡性のない閉鎖型のタイプの会社の少数株主が損害を防止するため行使する最後の救済手段と位置づけられています。

株式会社と持分会社では要件が異なりますので注意してください。

株式会社

次に掲げる場合において、やむを得ない事由があるときは、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主または発行済株式(自己株式を除く。)の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができます(会社法833条1項)。

株式会社における解散の訴えは、持分会社とは異なり、会社の業務が支障なく行われている限り、業務執行が多数派株主により不公正かつ利己的に行われ、少数派が恒常的不利益を被っているだけでは解散判決はされないものの、「株式会社においては、たしかに、株主の有限責任から、合名会社・合資会社より会社財産の価値(継続的企業価値)を維持する必要性は大きいが、少数株主の解散判決請求権の実際的機能は、解散という脅威を多数派に認識させることにより、不公正な取扱いを受けている少数派の持株等を多数派に妥当な価格で買い取らせる端緒を開くことにある」とされています(江頭憲治郎「株式会社法〔第7版〕」。

1号 株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

典型的には、50%ずつの議決権を有する二派の対立により、新たな取締役の選任も不能になったようなケースです。

東京地裁立川支部平成29年12月26日判決・金融商事判例1566号51頁

それぞれ30株の株式を有する2名の株主(X、Z)が存在する株式会社Y(発行済株式総数60株)において、Xが、会社法833条1項に基づき、Y会社の解散を請求した事案です。判決では「本件における株主間の対立にまつわる各経緯を見ると、その対立は根深いものである上、現実に株主総会や取締役会が円滑に開催できない状態が継続していること、相当期間協議が継続される中で、株主の一方又は双方の退出による方法が複数検討されるも合意に至らず、会社解散の決議も現実に提案されたのに合意に至らなかったことなどに照らすと、本件では、株主間の対立を合意により解消することは困難であると認められ、解散の請求について、やむを得ない事由があると認められる。」とされました。

東京地裁令和元年8月30日判決・判例タイムズ1469号249頁

①保有する株式に対して差押命令を受けた株主に会社解散の訴えの原告適格を認められ、②特例有限会社について解散判決が認容されました。

2号 株式会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、当該株式会社の存立を危うくするとき。

大阪地裁昭和57年5月12日判決・判例タイムズ470号195頁

たとえ株主の多数意思のもとに会社が休眠状態に置かれたものであつても、また会社決算上は債務超過の状態にはなくても、少なくとも、規定以上の株式を所有する株主が休眠状態の継続を是とせず、会社財産の清算を求める場合には、会社を休眠状態のままに放置していること自体が会社の業務体制の欠缺を意味し、会社名義の悪用等による不測の損害を蒙る虞れなしとせず、したがつて、会社財産の管理方法としては著しく失当といえるから、近い将来会社が営業活動を再開する予定であり、しかもそれが実現可能なものである等の特段の事情のない限り解散事由があるものというべきであるとされました。

993頁)。

持分会社

やむを得ない事由がある場合には、持分会社の社員は、訴えをもって持分会社の解散を請求することができます(会社法833条2項)。

最三小判昭和33・5・20民集12巻7号1077頁

合資会社の社員の間に不和対立があって、その儘の状態では会社を存続させることが困難であっても、現に社員の1名が除名される情勢にあり、除名によって十分打開の途があると認められるときは、商法第112条第1項所定の会社の解散につき「やむことを得ざる事由あるとき」に該当しないものと解するを相当とする。

最一小判昭和61・3・13民集40巻2号229頁

商法112条1項が合名会社の社員に会社の解散請求権を認める事由として定めた「已ムコトヲ得ザル事由」(以下「解散事由」という。)のある場合がいかなる場合かについて考えるに、合名会社は社員間の強い信頼関係が維持されていることを会社存立の基礎とする人的会社であるから、感情的な原因により、社員間の信頼関係が破壊されて膠着した不和対立状態が生じ、会社の目的たる業務の執行が困難となり、その結果会社ひいては総社員が回復し難い損害を被っているような場合には、これを打開する手段のない限り、解散事由があるものというべきであるが、右のような場合のみならず、合名会社は総社員の利益のために存立する目的的存在であるから、会社の業務が一応困難なく行われているとしても、社員間に多数派と少数派の対立があり、右の業務の執行が多数派社員によって不公正かつ利己的に行われ、その結果少数派社員がいわれのない恒常的な不利益を被っているような場合にも、また、これを打開する手段のない限り、解散事由があるものというべきである。しかしながら、右のいずれの場合にも、そこでいう打開の手段とは、その困難な事態を解消させることが可能でありさえすれば、いかなる手段でもよいというべきではなく、社員間の信頼関係が破壊されて不和対立が生ずるに至った原因、解散を求める社員又はこれに反対する社員の右原因との係わり合いの度合、会社の業務執行や利益分配が解散を求める社員にとつてどの程度不公正・不利益に行われてきたか、その他諸般の事情を考慮して、解散を求める社員とこれに反対する社員の双方にとって公正かつ相当な手段であると認められるものでなければならないと解するのが相当である。