割増賃金(残業代等)請求を受けた!

 使用者は、労働者に残業等(法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働)をさせた場合は、割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。

 尚、残業等を命じることが適法となるのは、災害等による臨時の必要がある場合(労働基準法33条)と三六協定(労働基準法36条)がある場合ですが、これらによらない違法な残業等に対しても割増賃金支払義務は当然発生します(最一小判昭和35年7月14日・刑集14巻9号1139頁)。

 法定時間外労働とは、1日8時間または1週40時間の法定労働時間を超える時間外労働です(ただし、例外があります)。

 法定休日労働とは、1週または4週4日の法定休日における労働です。

 深夜労働とは、午後10時から午前5時までの深夜時間における労働です。

 割増賃金(残業代等)の計算は非常に煩雑であり、また、争点も多く、紛争になれば長期化は避けられません。従業員から割増賃金(残業代等)の請求を受けた場合、早期に号相談いただければと思います。

割増率

① 1か月の合計が45時間以下の時間 割増率25%

② 1か月の合計が45時間超60時間以下の時間 割増率25%

ただし、割増率を25%より高く定める努力義務あり。

③ 1か月の合計が60時間超の時間 割増率50%

※ ③につき中小企業につき猶予措置がとられており、2023年4月1日以降の適用となります。

労働時間該当性の問題

 労働時間とは、始業時刻から終業時刻までの拘束時間から休憩時間を除いた実労働時間であり、現実に作業に従事している時間に加え、作業のために待機している手待時間も含まれます。

 最一小判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁(三菱重工業長崎造船事件)は「労働基準法(略)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」としています。

 具体的には、始業時刻前の準備行為や終業時刻後の後始末に要する時間、休憩・仮眠・手待時間などにつき争われ、それぞれ肯定例、否定例があります。

管理監督者の問題

 管理監督者については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されません(労働基準法41条)。したがって、就業規則や労働契約で特別の定めをしない限り、割増賃金を支払う必要はありません。

 ただし、深夜割増賃金(労働基準法37条4項)の支払は必要です(最二小判平成21年12月18日・最高裁判所裁判集民事232号825頁)。

 管理監督者か否かの問題は日本マクドナルド事件で話題になりましたが、肯定する裁判例と否定する裁判例がそれぞれ集積されています。

みなし割増賃金制(固定残業代、定額残業代)

 割増賃金を、あらかじめ定額の手当等の名目で、あるいは基本給の一部として支給されている場合があります。

 この支給が割増賃金の支給と認められるか否かが大きな争いとなっており、いくつかの裁判例をご紹介します。

割増賃金を基本給に組み込んでいる場合

高知県観光事件(最二小判平成6年6月13日・最高裁判所裁判集民事172号673頁

 タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、歩合給の支給によって時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできないとされました。

テック・ジャパン事件(最一小判平成24年3月8日・最高裁判所裁判集民事240号121頁)

 基本給を月額41万円としたうえで月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払い、140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定のある雇用契約の下において、⑴上記の各時間外労働がされても、上記の基本給自体が増額されるものではない、⑵上記の基本給の一部が他の部分と区別されて同項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれないうえ、上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間数は各月の勤務すべき日数の相違等により相当大きく変動し得るものであり、上記の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と上記の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない、などの事情のもとでは、割増賃金を支払う義務を負うとされました。

基本給とは別個に定額の手当を支給する場合(定額払制)

最一小判平成30年7月19日・最高裁判所裁判集民事259号77頁

「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される(略)。また、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下、これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に具体的に定められているところ、同条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではなく(略)、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、同条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができる。」、「そして、雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」とし、業務手当の支払により従業員に対して労働基準法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとしました。

年棒制の場合

最二小判平成29年7月7日・最高裁判所裁判集民事256号31頁

 医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても、当該年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないという事情のもとでは、当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできないとされました。

 

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(弁護士 井上元)

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