デリバティブ被害

最近、縁があってデリバティブ(金融派生商品)の勉強をしています。

デリバティブ(Derivative)とは派生物という意味であり、金融の世界では、金利・為替・株式などを原資産(元となる金融資産)として、これらを一定の取り決めで受け渡したり、インデックス(指標)として利用する取引のことをいいます。原資産である金融商品から派生する商品であるため、日本語では金融派生商品と呼ばれるのです。

具体的には、金融工学を駆使した種々の商品が開発されていますが、典型的なものがスワップとオプションです。

スワップとは、交換という意味であり、代表的なものとして金利スワップと通貨スワップがあります。

例えば、金利スワップは、A社がB銀行から10億円を10年間、変動金利(現時点では年3%と仮定します)で借りているところ、将来金利が高くなるリスクを避けるため固定金利にしたい場合に利用されます。A社はB銀行に対して想定元本10億円とし10年間固定金利(年5%)を支払う、一方、B銀行はA社に対して想定元本10億円とし10年間変動金利を支払う、というように固定金利と変動金利とを交換するのです。結局、A社は10年間固定金利を払い続けることになります。

一見何の問題もないように見えますが、変動金利が下がっている状況では、A社は、延々と高利の固定金利を支払わなければなりません。上記の事例で、A社が単にB銀行からの変動金利での借入を、固定金利での借入に借り換えたのであれば、将来、変動金利が高くなった時点で他の銀行から融資を受けてB銀行からの借入を繰り上げ返済することができます。しかし、金利スワップ契約を締結していると、極めて高額の解約清算金を支払わなければならず、しかも、事前に解約清算金の額は分からないのです。銀行は変動金利のリスクをヘッジするのだと主張していますが、少なくとも中小企業にとって金利スワップを利用する必要があるのでしょうか?

金利スワップについては、福岡高裁平成23年4月27日判決(平成20年(ネ)第1045号事件、平成20年(ネ)第658号事件)・判例タイムズ1364号158頁が銀行に説明義務違反があったとして損害賠償請求を認める画期的な判決を下していますので参照してください。

オプションとは、株式や通貨などの資産を一定期間(行使期間)あるいは将来の一定日にあらかじめ決められた一定価格(行使価格)で「買う権利」または「売る権利」のことであり、この権利を売買することをオプション取引といいます。

「買う権利」のことをコールオプション、「売る権利」のことをプットオプションといい、それぞれ売り(コールオプションの売り、プットオプションの売り)と買い(コールオプションの買い、プットオプションの買い)があります。

このうち、オプションの売りは極めて危険な取引です。例えば、通貨オプションで説明しましょう。現在、1ドル=100円と仮定し、AがBに対し、オプション料をもらって、1年後、1ドルを110円で買う権利を売ったとします(コールオプションの売り)。1年後、ドル高円安で1ドル120円となると、Bはコールオプションを行使してAに対し110円を支払って1ドルを売ってくれるよう請求し、Aはこれに応じなければなりません。この場合、Bは110円を支払ってAから購入した1ドルを直ちに市場で円と交換すると120円が手に入りますので、10円利益を得ることになります。逆にAは10円損することになります。

円が130円、140円、150円と安くなればなるほどAの損失は膨らみ、理屈ではAの損失は無限大になる可能性もあるのです。

オプションの売りの危険性については、最高裁平成17年7月14日判決・民集59巻6号1323頁でも指摘されているところです。

 

近時、デリバティブのうち特に通貨スワップ通貨オプションなどのいわゆる「為替デリバティブ」が問題となっています。

金融庁は、平成23年3月11日、「中小企業向け為替デリバティブ取引状況(米ドル/円)に関する調査の結果について(速報値)」を公表しており、これによると、「販売契約数をみると、平成16~19年度までは毎年度約12,000件前後で推移し、合計では約6万強の契約が販売されていた。いわゆるリーマンショックが発生した20年度以降、販売契約数は大幅に減少している。その結果、16年度以降の販売契約総数のうち、16~19年度に販売されたものが全体の約8割に上っている。」という状況であり、「22年9月末現在で契約を保有する企業数は、約1万9千社である。」とのことなのです。

銀行や証券会社などの金融機関は、顧客にこのような危険なデリバティブ商品を販売するには、その危険性を十分に説明する義務がありますし(説明義務)、投資者の投資目的・財産状況などからみて不適合な金融商品を販売してはならないという義務があります(適合性の原則)。これに違反して販売した場合には損害賠償義務を負うことになるのです。

それでは、デリバティブ被害にあった場合にはどのようにすればよいのでしょうか?

解決方法には2つあります。

第1に、ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用する方法です。全国銀行協会(全銀協)と証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)が指定紛争解決機関として紛争解決のあっせんを取り扱っています。解約清算金をある程度免除するというような柔軟な解決が多くなされているようです。

第2に、訴訟を提起する方法です。この場合、金融機関の違法性を十分に立証する必要があります。

デリバティブ被害については、商品の危険性の程度、購入者の経験、金融機関の説明などを十分に考慮して対策を練る必要があります。

デリバティブ被害でお困りの場合、当事務所がお手伝いしますので、いつでもご相談ください。