労働者とは?

 労働契約法6条では「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」、労働基準法9条では「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定されています。

 労働法の法理、すなわち、賃金、就業時間・休息、解雇権濫用法理、配転・出向、懲戒権濫用法理などが適用されるか否かは、労働者に該当するか否かによることになります。そして、労働者該当性の判断に際しては、①指揮監督下の労働か否か、②報酬の労務対償性、③その他の補強要素、により判断されています。

 会社が従業員との争いとなった場合、まず、当該従業員が労働者か否かを検討すべきことになります。

 裁判例をご紹介すますので参考にしてください。

最高裁判例

最一小判平成8年11月28日・最高裁判所裁判集民事180号857頁(横浜南労基署事件)

 次のように判示して車の持込み運転手の労働者性を否定しました。

「上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、Aは、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人がAの指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的にAの製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び就業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも1割5分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。」

最二小判平成17年6月3日・民集59巻5号938頁(関西医科大学研修医事件)

 次のように判示して研修医の労働者性を肯定しました。

「研修医は、医師国家試験に合格し、医籍に登録されて、厚生大臣の免許を受けた医師であって(医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)2条、5条)、医療行為を業として行う資格を有しているものである(同法17条)ところ、同法16条の2第1項は、医師は、免許を受けた後も、2年以上大学の医学部若しくは大学附置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において、臨床研修を行うように努めるものとすると定めている。この臨床研修は、医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり、教育的な側面を有しているが、そのプログラムに従い、臨床研修指導医の指導の下に、研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして、研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には、これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり、病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り、上記研修医は労働基準法99条所定の労働者に当たるものというべきである。」

最一小判平成19年6月28日・最高裁判所裁判集民事224号701頁(藤沢労基署長事件)

 次のように判示して大工の労働者性を否定しました。

「上告人は、前記工事に従事するに当たり、Aはもとより、Bの指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず、Bから上告人に支払われた報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、上告人の自己使用の道具の持込み使用状況、Bに対する専属性の程度等に照らしても、上告人は労働基準法上の労働者に該当せず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。」

企業の経営に携わる者の労働者性

 使用人兼務取締役や執行役員の労働者性につき争いとなることもあります。

 例えば、東京地判平成18年8月30日・労働判例925号80頁は使用人兼務取締役につき、東京地判平成23年5月19日・労働判例1034号62頁は執行役員につき労働者たる地位を認めています。

 

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(弁護士 井上元)